第65話 牛タン定食

万能さんの意向で地表に降りてみる。

「なんなのよもう。一仕事終わってトールに甘える算段が崩れたわ。」

「ミズーリはチビを抱いて抑えとく様に。」

「?。はい。」

いち早く外に出ようとするミズーリをまずは引き留める。が、直ぐに外に出てもらう。

そこにいたのは身長4尋程度の鬼の死骸だったからだ。鬼の左足首は無くなっていた。ドローンを飛ばすと離れたところで池の水を汚していた。池の水が鬼の血で染まっていた。

「何をしたのよ。」

陰惨な光景に珍しくミズーリが眉を顰める。

「空飛んでたら、何かとぶつかりそうになったから落としてみた。そしたらその何かは鬼だった。」

鬼の止血をし、清浄の魔法をかけてもらうと

血に染まっていた池の水が透明になっていく。

「何かってどんな表現よ。」

「何も見えなかったんだよ。万能さんの警告で避けて撃墜してみたんだけどね。私が対処出来なかったのは鬼からの敵意がなかったからだな。」

「敵意なかったけど殺したの?…でもこの世界の鬼の有り様から言ってそれが正解か。」

「そうとも限らない。私は鬼から助けを求められた事があるから。」

湖で会ったあの鬼の女性の事だ。

「あの鬼には敵意を感じなかった。ただ、私とコンタクトを取りたい。それだけにしか見えなかった。今回、私が問答無用で鬼に力を振るったのは。」

腰からぶら下がりていた卵を取り出す。

卵が薄く光っていた。その光は私達が見ている目の前で消えていった。

「この卵からも、その撃墜すべきと意思を受け取ったからだ。」


私達は空の旅に戻る。しばらく溜池上空に待機して様子を伺っていたが、誰も近寄って来なかった。

それだけこの辺は人口密度が低いのだろう。 

「卵が鬼だから殺せって言ったのね。」

卵には卵の役割があると言う事だね。

「どうするの?」

「何も変わらない。」

引き続き王都を目指すだけだ。考える事と手掛かりは増えたけどね。でも何も考え無い方針も引き続く。鬼が王都を目指す理由は留意しておく必要はありそうだ。

「鬼って言う存在は、この世界の定義は動物で良いんだね。オーガの様なモンスターでは無く。」

「そうよ。」

「ならば何故、その動物が姿を消せて、空を飛んでいたのだろうか。」

「私はその一連を見てないから何とも言えないけど、トールの世界で言うなら透明な熊が空を飛んでいたって事か。」

シュールだ。空飛ぶ透明熊。

「そんなのが飛んでたら溜まったもんじゃ無いわね。」

あれ?もしかして。

「何?」

この世界では透明な鬼が普段から空を飛びまくっている訳では無いだろうな。

空を飛べる人間が私達しか居ないから誰も気が付かなかっただけで。

「うわぁ。」

うわぁ。


と言っても、私達の方針は何も変わらない。相変わらず駆け足のスピードで王都へ空中移動していくだけだ。そこでまた空飛ぶ鬼とニアミスするかしないかで、それはそれで先程の嫌な想像と整合性が取れる。万能さんをオートパイロットモードにしておけば良いし。


鬼よりも晩御飯晩御飯。

献立はどうしよう。あの下に見える見覚えのある動物は。

「牛。トールの世界程は家畜として品種改良されてないから、肉牛として洗練されてないけどね。牛乳と農耕が主な役割だし。」

牛か。焼肉、牛丼、ステーキ、炒め物。

決めた。牛タンだタン。とろろご飯にテールシチュー…だとしつこいから、テールスープで。口直しにいつもの胡瓜と茄子の浅漬けを。

タンの味付けは、シンプルに塩胡椒だけ。お好みでレモンもどうぞ。

とろろは万能さん手掘り?の天然山芋をすりおろし、醤油と麺つゆの合わせ調味料でご飯にたっぷりかけていただきます。ご飯は勿論、麦飯で。

テールスープは灰汁取りを万能さんが引き受けてくれたので、じっくり酒と味醂で煮込んだものに塩胡椒で味を整え、白髪ネギを乗せて完成。


「お肉もお米もとろろも、みんな変わった食感ね。」

牛のベロと尻尾と、大和芋ではなく天然山芋で麦。いつもの食事よりは端っこの食材ばかりですから。

「牛も端っこのお肉ばかりだし。」

ベロと尻尾だから端っこといえば端っこだけど。

万能さん特製でなければ。いくらかかるか分からない高級食材ばかりですけどね。

「このスープのお肉美味しい。口の中で蕩けちゃうの。」

最近ミズーリはご飯で余り興奮しなくなって来たな。

「トールに躾られたからね。経験値の積み重ねの賜物です。」

はあ、別に大したもの作ってませんけどね。

「神界の、神の食生活の貧困さを舐めたらいけないわ。」

創造神様に叱られても知りませんよ。

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