第64話 撃墜してみた
という訳で、私達はのんびり空の旅を味わっている。進行方向にある窓を窓枠ごと少し広げて、景色鑑賞用にソファを動かした。ミズーリは窓枠に肘をついて外を眺めている。チビは私達の足元で丸くなっている。
スピードは人の駆け足くらいで抑えている。
土地の意志さんが今のところ「急げ」と追加注文しに来ないからだ。鬼の女性は、空を飛んでいる限り接触しに来ないだろう。
天気は雲一つ無い快晴。
勿論、姿は見えなくしているので眼下で働く農家の人達も誰一人として私達の存在に気が付かない。
森と草原を歩いて、草原と湖底を馬で走り、湖をボートで漕ぎ出し(漕いでないけど)、今度は空を飛ぶ。次は水中か地中を潜るか宇宙空間に飛び出すか。私達ならなんでもありだ。
飽きた。だって風景が田園風景のまま変わらないんだもん。
とっくにミズーリは私に身体を預けて寝息を立てている。チビもミズーリの膝の上で丸くなっている。今日はサボる日だ。とことん気を抜こう。
歩いて飽きて空を飛んで飽きて、この国はそんな何も無い国なんだろう。
では昼からお酒、といきたかったが
隣にお子様女神がいるし、冷茶でお昼までの時間を過ごす。
お昼は焼き鳥というのはどうだろうか。
「焼き鳥。何食べよかな♪」
ねぎま、もも、皮、ハツ、ぼんじり、つくねを準備。軟骨と手羽先はミズーリさん的に串に刺すものでは無いそうです。
「手羽先は唐揚げで。軟骨はニンニクとホイル焼きでお願いします。」
君、実は呑兵衛でしょう。
「天界にはお酒なんか無いわよ。お供えものを呑んでる人(神)は居たけど、私がお相手する人はねぇ。お葬式に供えられるお酒だし。」
日本のお供えにも日本酒はありますけど。
「神仏に捧げるお酒だけど、死人の穢れを祓う意味もあるお酒だもん。ちょっとね。」
なるほど。
「だからトール。私が大きくなってお酒を呑める様になったら作ってね。
それまで私が貴方の酌で我慢するから。妻として。」
それは私も楽しみにしていますよ。
「夜の方もね。楽しみにしてるから。」
隙あらばこの子は。
「で、味付けですG
「塩塩塩塩!塩でお願いします!」
また食い気味だ。
「タレよりも塩。塩さえ有ればタレなんか要らないわ。」
君、やっぱり呑兵衛でしょう。あと全国のタレ派の人に謝りなさい。
「べーつーにー。なんなら殺しちゃうし。」
食べ物が絡むと死神になるウチの女神さん。
グリルに串刺して食用油を塗った焼き鳥を並べて塩をかける。ぶっちゃけ、それだけ。
グリルをちょこっと細工して炭火焼き仕様に変更。少し遠火にして鳥の脂を少しずつ炭に落ちる様に串を回す。
ミズーリさんは「目に毒なの。」とチビにフードをあげる事に集中している。
付け合わせはどうしようかな。
塩焼き鳥だからさっぱりめに、冷奴と玉子スープといこう。これもう居酒屋のセットだね。お昼ご飯だけど。
「皮塩。ぼんじり。つ・く・ね!」
嬉しそうに焼き鳥の歌を歌い出した女神は、時折私の口に串を突っ込んでくる。
ご機嫌彼女モード発動。なので私は焼に集中する。
「ニンニクも有ると良かったかしらね。」
ああ、ニンニクはニンニクでニンニク主役のご飯を考えているからですよ。
「嬉しい。それは嬉しいの。って言うか、女の子の私をニンニク漬けにしたのはトール。貴方よ。」
ニンニク漬けの女神…。
ミズーリが洗い物を始め、私が地図と眼下の地形を見比べて現在位置の確認をしていたその時。万能さんから注意喚起のアラートが私の意識に割り込んで来た。
このままでは5分以内に衝突します。
何と?有視界内には何も見えませんが。
何かと。
何かとですか。回避行動を。
しています。…成功。ホーミング装置は無い模様。何かはそのまま直進していきます。
方向は?
王都方向。このままだと明日には王都に到着するでしょう。
あれ?万能さんと普通に会話してる?
撃墜は出来ますか?。
可能。この先に溜池と思われる貯水施設があります。そこに落とします。
とうとう空中戦まで出来るようになったか我が家。
何かは何をしに王都に行くのだろうか。
そこにもう一つ。撃墜を勧める万能さんとは別の声が私に流れて来た。
まもなく撃墜ポイントです。撃墜して下さい。
なんだ、私がやるのか。
窓に表示します。
窓に十字が現れてたので、とりあえず右手を照準に合わせて振った。
何も見えない空中から獣の咆哮が響き渡り、まもなく溜池から派手な水飛沫が上がった。
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