第63話 飛行家(ひこういえ)
翌朝。ベッドの中で同時に目を覚ました同衾人に声をかける。
ミズーリの体調は回復していた。
「なんで?もう身体は何ともないの。トールと一晩一緒にお休みしたから?」
多分、それもある。あの多幸感による精神の安定は大きいでしょう。
でもね、それ以上の原因としてミズーリの成長に身体が適応したからではないかと思います。この間、君のハイテンションが止まらなくなった時、様子を見に来た創造神様が言ってました。
「今の君は自身の成長に色々追い付かなくなっている面がある」、と。
女神としての君が、どの様な手順で成長して来たのか、それが人間とどう差異があるのか。ただの転生人間の私には分かりません。
でも、人間としての私の経験則から言うと、思春期前後の成長期には自身の成長速度に認識が追い付かず、肉体的な痛みが付随してました。君は女神として、もう一度身体に受け入れ無ければならない事が多すぎるのかも知れません。それが心や身体に自身の想定以上の負担をかけているのではないかなと。
「ふーん。時々アレよね。」
なんですか?
「トールって、女神である私よりも知識や思慮が深いよね。女としては頼れる男のそばに居れるって凄く嬉しいけど、女神としては嫉妬だわ。」
………
「それが出来る女神なら下界に落とされないって思ったな!えぇえぇ、どうせ私は天界史上初の堕天女神ですよ。」
女神がいじけた。泣いて笑って怒って落ちこんでいじける、とにかく感情表現豊富なうちの女神様ですが。
それが私の相方ですし、ちゃんと支えて行きますよ。
お姫様抱っこでベッドから下ろすと、それだけでウチのチョロい女神は機嫌を直した。
チビが朝一番の挨拶をしに来るので、ミズーリはたちまち上機嫌までメーターが上がっている。
鯖の塩焼き(大根おろし付き)、出汁卵焼き、お漬物、納豆、油揚げと豆腐のお味噌汁、ご飯。という、ドが付く定番和朝食をぱっぱっと作る。
この定番和朝食をミズーリはたいそう喜ぶ。単純な好みでいうのならば、彼女のお気に入りはいくつもある。この献立は私が好きなものであり、私が好きなものは(妻たる)ミズーリも好きなものなの!だそうだ。実際トーストの洋朝食よりも、朝はご飯とお味噌汁を彼女は希望する。(自分では作らない)
お味噌汁をズルズル啜るミズーリと今日の指針を話し合うが、一つ私がやってみたい事があった。
今、私達の家は宙に浮かんでいる。
地図を見る限り今日・明日のルートは変わらず田畑の中の農道だ。毎日毎日、土地の意志だの鬼だの化け物だの、何かが私達の元に来るが、はっきり言って飽きた。飽き飽きだ。
飽きたのは出来事だけにではなく、風景にもだ。遠く霞む山の元まで一面に広がる田畑。たまに農家があるけど見つからない様に迂回する。都市や街は影も形も見えない。
一日で飽きた。最大目標であるミズーリは少しずつ成長している。ならば、今日は思い切り手を抜こう。
だって観光して休もうとしても人外さんが来ちゃうし。
「で、どうすんの?」
今、この家は宙に浮かんでます。
「今更だし、神様の私が言う事でもないけど。めちゃくちゃね。」
今日はこのまま浮かんで王都に向かいます。
「分かりました。それも良し。」
ミズーリに何か意見はありますか?
「だって、どうせ私じゃトールの考え以上のもの浮かばないし。」
まだ少しいじけてる女神様。
「昨日の今日だしね。地表にいても休めないなら、空中で一日乳繰りあってようよ。」
乳繰りあいません。
「あおうよォ。」
これもいつも同じ。
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