第52話 スッキリしたら朝ごはん

「卵はトールが持つべき。」

万能さんには手掛かりと言われたし、ミズーリの提案に異議はないがしかし、なんかさすがに疲れたなぁ。

馬くんに家まで戻って貰い、万能さんに湖の水を戻して貰う。とりあえずこれで現状復帰。

家に戻って少し考える。

助けを求める為に私を呼び出した謎の女鬼。湖水にたむろっていた謎の化け物さん達、湖底に沈んでいた謎の卵。卵は今、ローテーブルの上に転がしてある。

一日で処理するにはキャパオーバーもいいとこだ。昼過ぎには釣りで騒いでいたのに。

夜は刺身で晩酌を楽しんでいたのに。

「トール、お風呂へ行ってらっしゃい。二枚目が見れたモノじゃないわ。」

私のどこが二枚目だと返す気力がちょっと足りない。あと、二枚目って言い方古くない?

ミズーリにタオルを首に掛けて貰うと大人しく入浴した。

こんな夜の為に入浴剤がほしいなあ。このお風呂、温泉にならないかなぁ。とダラダラ湯船で呆けてたら万能さんに怒られた。休む時は休みなさいと。最近、万能さんに意思の存在を感じるけど、どういう事なんだろう。


部屋着に着替えて出てくると、パジャマ姿のミズーリが私の手を引きベッドに誘う。

きちんと服を着ているから、悪ふざけモードでは無いのだろう。

いつもなら、足を絡ませたり腕を抱えたり、自身の身体をなるだけ私に密着させようとするミズーリだが今日は違った。私の頭を抱えているのだ。

「女神ミズーリが命じます。トールに安寧を。

トールに安らぎを、トールに…」

ミズーリの優しい声を聴きながら、私は直ぐ意識を落とした。童女が女神力を積極的に使うほど、私は酷い顔をしていたらしい。


起きた。目の前に私を見つめるミズーリの顔があって驚いた。

「ごめんない。」

謝られる必然性あるかな。

「トールが無理してると気が付きませんでした。」

私も無理してるとは気が付きませんでしたよ。

「大丈夫だよ、ミズーリ。私が疲れたら私の女神が癒してくれる。それが私達だろう。そう二人で決めただろう。…とは言えね。」

身体を起こすと大きく伸びをする。

「まだ色々考える事が多すぎる。多過ぎたんだ。沢山人を殺して、神やら鬼やら人外の存在が毎日の様に顔を出すしね。きちんと整理出来たら君に話すよ。」

ミズーリが私に抱きついて来た。

何も言わずに泣きだしてしまった。やれやれ、私は相棒失格だ。

涙を落とし続けるミズーリに静かに話しかける。

「万能の力を身につけているとはいえ、私はこの間までただの人間だったんだよ。人間を辞めてまだ数日しか経っていない。

でもその数日間は、私の常識外の事ばかりだし、私の思考能力では追いつけない事ばかりだ。で、色々悩んでた。考えた。その結果、私は頑張らない事にする。私の心では理解出来ない事があまりに多過ぎたたから。

昨日お風呂でそう決めたんだよ。でもね、ミズーリ。」

「…ん、何?」

「また私が酷い顔をしてた怒って欲しいな。そして癒して欲しいな。それは君にしか出来ないから。」

「…うん。」

「OK。じゃあメシだメシ。」

ミズーリをお姫様抱っこしてベッドから出る。

「リクエストはあるか?」

「トール的朝ごはんの定番を食べさせて。」

はいよ。


私の朝食の定番か。なんだろう。

ご飯、お味噌汁、お漬物。これは基本。

朝の主菜は卵なんだよね。目玉焼きにするか、卵かけご飯にするか。目玉焼きのお供はハムかベーコンかソーセージか。

卵かけご飯なら、少し塩辛さアップで、チョリソーかタラコか明太子。

うん。決めた。卵かけご飯に生タラコがメインだ。ツナキャベツサラダに胡麻ドレ。

お味噌汁はこの間後回しにした、たけのこの水煮とネギを白味噌でシンプルに、たけのこの歯応えを楽しもう。口直しに白アスパラをマヨネーズで食べよう。缶詰の奴ね。

ミズーリは卵かけご飯に興味津々だったが、TKG専用出汁醤油がホームランだったようだ。

タラコをお茶碗に乗せて朝からおかわり3杯目。マヨ好き女神はアルパラの繊維質な食感も気に入ったみたいね。また私の分も皿ごと持っていった。お味噌汁ではたけのこをいつまでもコリコリ楽しんでいた。


よく寝てよく食べる。男女なのに男女の関係になれない私達は何より大切にしないといけない事だね。今日も笑って美味しいご飯を作ろう。

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