第53話 卵
「卵。」
「卵。」
卵かけご飯の朝食を食べ終わりゆったり食休みを取っていた私達は、ローテーブルの上に転がっている卵を見つめる。
「何の卵だろ。何で卵だろ。」
これさ、どうやって持ち歩けばいいんだろう。いい加減に持ってたら割れそうだし。
「割れたらどうなるんだろ。何か生まれんの?」
ローテーブルまで、グリグリ這って行った怠け者の女神は、目線を卵に合わせてグデる。
満腹感と絨毯の感触に半分以上溶けてる。
「温めたら孵るのかな。」
「昨日まで湖の底にあったのに?」
「よねぇ。」
ちょっと待ってね、というとミズーリは卵に両手をかざしてみる。
「えっとね。死んでないよ。この卵。でも生きてないの。」
意味が分かりません。
「卵の形をした何らかの装置、という見方があってるのかな。」
意味が分かりません。
「死を司ってる筈の私にも、意味が分かりません。」
何だそりゃ、…あ。これ分からない事だ。考えない考えない。そうすると決めたんだ。
「保留だ保留。つい最近ブレインストーミングと称して塩ラーメンの具を話し合った気がするが、あの時の残った議題を含めて全部保留。」
「また塩ラーメンご飯が食べたいです。」
幼い身体には良くなさそうなので控えなさい。
「おっぱいが膨らみ始めているから、それほど幼くもないつもりなんだけどなぁ。」
で、今日の指針だけど。
「一応、王都に向かうべきなのかしらね。」
「今日も観光するか。」
「いいの?」
「ちょっと頭を冷やしたい、何もしなくてもどうせ向こうから判断材料が駆け足で追いかけてくるだろうし。」
「ならば。トール地図地図。」
ミズーリは再び四つん這いで食事を食べていたテーブルに帰ってきた。
「考えてみたら女の子が四つん這いで部屋の中を歩いてる姿は、裸でなくとも少しいやらしくないですか?ご主人様ぁ。」
余計な事は考えないと決めたんだ。
「私は余計な事か!」
神界謹製マップルを広げる。
「湖から出ている川が一本だけあるの。この川は丘陵に沿って南下して行くのだけど、
ほらこの部分。」
ミズーリが指指す場所は川が丘陵に切れ込んでいる。
「ここが渓谷になってるの。」
なんで川がわざわざ山ん中に入ってくんだ?
「元々小さな金鉱山があったとこで、開発と生活用水の為に運河を掘った。そしたら鉱山が崩壊して運河に小さな滝が出来た。滝のせいで流れに勢いがついたせいか、そのうち本流がこちらになってしまった。って歴史があるわけね。」
お茶の水近辺の神田川か。川廻しって土木工事は江戸時代から全国でやってるし、北海道にはダムが壊れて出来た滝もあったな。
「観光客はそれなりにいるけど。ただの観光なら一時間くらい楽しめるわ。」
ミズーリ勝手に観光協会が、だんだん便利になってゆく。
卵は万能さんに専用ポーチを作って貰い腰からぶら下げた。
ミズーリは腰に抱きつかない様に。
「お腹に抱きつくから平気。」
同じです。
家と馬くんを収納すると湖畔に沿ってのんびりと歩き始める。今日の予定は川に街道の合流地点の手前で昼食。午後には峡谷を散歩して今晩のキャンプ地を探す。
そんなんで行こうか。
ミズーリの言う川は小川だった。
湖から一本だけ流れ出す川というから、
諏訪湖から流れる天竜川をイメージしていたけどこれは細いなぁ。昨日のボートをこっそり出して流れようと思っていたのに。仕方がない、大人しく歩きますか。
「ボート出しても、此処じゃ浅過ぎない?」
ですね。
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