第51話 湖の水全部抜く(題でネタバレ)

何故お化け達は湖から出てこない。

その理由は何だ。

出てこないのではなく、出てこれないと考えてみよう。

「ねぇトール。」

何かな?

「殺っちゃう?」

「短絡が過ぎる。」

「でもね、死者の魂を送るのは私の仕事なんだよ。」

「その通りだけれども!今は違くないか?」

何が違う?敵意?殺意?確かにそんなものを感じない。だが、死者故に感情も生前と違っていて当たり前だ。

彼らが何を求めているか見極める必要があるな。

「ミズーリ、この地は鬼に食べ尽くされた。それに間違いは無いな。」

「ほんの100年ちょい前の事だもん。伝説でも記録でも無い、まだ人々には記憶よ記憶。」

ふむ。

「あとね。」

何?

「緊迫感を煽っても無駄でしょ。私達に誰が対抗出来ると思ってるのよ。」

いや一応、私達の前にはお化けさんが大量にうじゃうじゃ湧いているホラーな趣きなんですけどね。普通の女の子なら悲鳴上げて失神するシーンです。

「それとエッチい事してて最初に殺されるカップルね。」

ああ、一瞬でいつもの空気に。お化けさん達呆れて帰らなければ良いけど。 

「試しに私達もしてみると言うのはどうかしら?」

「しませんよ。」

「しましょうよ。」

前にもあったな。こんなクダリ。

「で、どうすんの?」

「水から出てこれないなら。」

「ならなら?」

「水が無くなったらどうなるか見てみよう。」

「結局いつもの力技かあ。」

うるさいよ。


と、言っても。別に外来生物を駆除する訳では無いので、スタフグロの街で使った手でいく。万能さん、湖の水を湖底0.5センチのところまで湖水を抜いてくれ。水生生物には傷をつけない様に。水は異次元に置いといて待機で。

瞬時に水は無くなる。ズゴゴゴゴゴと言う音も何もしないから呆気ないんだけど、お化けさんは戸惑っている様に見えるのは気のせいかな。無理もない。

「行くの?」

直ぐ近くをお化けがウロウロしている中で寝たく無いでしょ。出来る限りの事はします。

「んじゃ。」

ミズーリが指を胸元でくるくる回すと湖の元水面の高さまで明るくなった。

「付近に人はいないけど、念の為。」

では、ドローン偵察機出動。探索開始せよ。うん、湖のほぼ中央に何かが見えるな。

万能さんに確認してみたら、自分で見に行きなさいと言われた。答えを教えてくれよ。

湖は最深部でせいぜい二尋、わりかし平坦ではあるが足場は当然宜しくない。土中生物の可能性を考えて水は若干残してある。どうすっかなぁ。歩くのはちょっと面倒だし。

…待たせたな!

待ってたよ。昼から姿が見えなかった馬くん再登場。馬のくせにきちんと乗りやすく跪いてくれる。

ご主人は奥様をしっかり抱きしめておけよ。 

奥様呼ばわりされるミズーリがご機嫌なのはいいけど、いつまで経っても緊迫感が戻らないなぁ。

馬くんは一声いななくと疾風の如く走り出す。置いて行かれたお化けさん達が必死に追いかけてくるのが面白いぞ。

ありゃ敵対勢力じゃないな。多分。

あと水は関係ないんかな。お化けさん。


「卵。」

「卵。」

 卵。←馬くん

私達は2人と1頭で鶏卵にしか見えない卵を囲んでいた。目的地にあったのはこれだけ。

「よくあるパターンだと、これはドラゴンの卵で、刷り込みに成功したトールがドラゴンマスターになるのよね、この世界にドラゴンなんかいないけど。」

居られても迷惑なんだけど。それにどう見ても鶏だろこれ。湖の底に沈んでいた意味も分からない。

「万能さんは何か言ってるの?」

この卵が手掛かりとだけ。

「ふーん。」

ところでミズーリ?

「うん。お化けさん達消えてるね。」

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