第50話 鬼

岸に戻るとミズーリは入浴に行った。

馬鹿風呂話をしているうちに入りたくなったらしい。昨日私があげたふわふわバスタオルがお気に入りらしく、嬉しそうに抱えて行った。

さて、と。

私は一人湖に足を運ぶ。

そこに女性がいる。角が一本、目が額にもある三つ目の鬼である。

ただし身長は私達と変わらない。

彼女は待っていた。私達いや、私がここに来る事を。


助けて下さい


それだけ言うと、彼女は身を翻して去っていった。

だからさあ。

何から助けろって言うのよ。分からないよ。どいつもこいつも言いたい事言ったら帰りやがって。

意志も鬼も何故私に助けを求めてくる。

人外の人ならざる存在が。

私はその声に導かれ、女神ミズーリ抜きで動かざるを得ない。創造神は言った。私の選択は正しい。信じると。

ならば私は私を信じる以外あるまい。

それがミズーリの為になるはずだから。

溜息一つ残すと私は家に帰る。


「トールから別の女の匂いがする。」

帰ると鬼ならぬ鬼嫁が待っていた。

童女鬼嫁。何か面白い。


なので私はミズーリに風呂へ押し込まれた。

女性(鬼)と会ったのは数秒なんだけどな。

私の意識を攫ったんだろう。多分。

あの小さい女神は、アレで結構なヤキモチ焼きなんだ。アリス嬢の時に何かが壊れて、直ぐ脱ぐ様になってしまった。

「下着は脱いで洗濯機に入れておいてね。」

鬼嫁がオカンになってる。なんやかんや言って世話女房気質でもあるんだな、彼女は。

あと、浴室に鍵つけとこうかな。


夜。

釣った魚が食べられなかったので魚を食べる事にした。

マグロ、カツオ、イカ、タコ、ハマチなどなどお刺身!活き造り!山かけ! 

海老は唐揚げにしてすまし汁に丸ごと投入。

殻ごと全部食べられて出汁もたっぷり、お手軽少し贅沢な汁物。

そして今夜私は一つの封印を解く!

お酒OSAKEポンシュ。創造神は好きにしろと言う。万能さんは好きにすると言う。ならば私だけ我慢する必要などなかろう。呑む。

「はい!せんせえ。トールだけ狡いです。」

「ミズーリ、君には大切な役割があります。私に酌をして下さい。妻として。」

「!。はいっ喜んで。」

チョロい。というかミズーリさん。早く私とお酒を飲み交わせる身体になりましょう。

「うん。」

やっぱりチョロい。


ミズーリさんはどこからそんな着物を出してきたんですか?

「勿論万能さんです。ほらこのお着物、割烹着にもなるのよ、あなた。そしてジャジャン。」

両手を袖口にしまって

「ここからほら、袖口からトールが手を入れれば私のおっぱい揉み放題。」

おっぱい無いけど。

「うるさい。揉めば増える。」

3つに?

「増やしてみせようか?」

などと相変わらずの二人は今日も変わらず、美味しく晩御飯を頂いたのです。


食事を終えた私達はそのまま外に出る。ミズーリの和風姿で思い付いたのだ。万能さんに甚平を出して貰い、二人とも和装で湖畔までやってください来た。何をするか?花火ですよ花火。

娯楽が無い世界ですから娯楽は自分で作る。

コンビニで売ってたご家庭向けセットですが、二人だけだし、ましてや一人は童女だし。

「線香花火しよう。線香花火。どっちが最後まで点いてるか勝負よ。」

君はどこからそんなド定番な事を。

「トールとは全てのイベントを経験するつもりですから。そろそろ覚悟を決めて頂く所存です。」

ですか。

「です。」


花火を全部楽しんで後片付けをしてるとミズーリがつぶやいた。

「沢山いるね。」

幽霊って奴か。何かが私達をずっと見ているのだ。

おかしいな。本来なら怖いシチュエーションなんだけどな。全然怖くない。

そういえば私も2回死んでるんだった。

花火をして夏気分を味わったけど、この国的には春なんだよね。一年中。

怪談の季節って無いのかな。

「多分、鬼に食べられた人達。」

幽霊さんが湖の上に沢山漂っています。

成仏出来ないだろうな、ん?

「君は死と転生を司る女神ではなかったかな。」

「縄張り外。」

女神は猫か。

「ゴロニャン。」

いちいちボケてくれる女神様は好きですよ。

しかしこれは、女神に反応しているのか?私に反応しているのか?

「気がついてる?」

お化けが湖上空から一歩も出てこない件なら。さて、どうしますかね。

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