第47話 コーンバター

私もとりあえず考える事を放棄してみた。

現実逃避って奴だ。

DVDをみてケタケタ笑う事に集中した。

私は結構クヨクヨする方なのだけれど、けろりと忘れて楽しめた。

これも膝枕しているミズーリの女神効果なのだろう。

そのミズーリを起こさない様に私の代わりにクッションを枕に替えて夕食作りを始めよう。

さっき適当に返事をしたがステーキだ。

と言っても、童女にスプーン・フォークを持たせて、血が滴る分厚いレア・サーロインステーキを食べさせるというのは絵面としてどうだろう。

うん、サイコロだねサイコロ。

部位は各部混合で選別は万能さんにお任せしよう。

副菜は前世のステーキハウスでもメニューに有れば追加していた、コーンのバターソテー(ほうれん草はまた今度)に温野菜、汁物は豚汁でにしよう。とんかつ屋やステーキハウスの豚汁は美味しいんだ。


「トール?」

お姫様が起きた様ですね。

「おはようミズーリ。」

とてとてと歩いて来た女神は厨房に立つ私の腰にしがみ付いた。

「ごめんない、悪ふざけが過ぎました。」

心配になるレベルでしたから強制執行しました。

「テンションが上がり過ぎて自分でも面白くなっちゃったの。明るい家族計画が10年先まで浮かんだわ。」

私達の子供の名前は決まった様ですね。

「あと、誰か来た?神の気配が残っているけど。」

創造神様が。

「何と?」

「好きにしろ、と。」

私の言葉を聞いたミズーリは数瞬考えて選択した言葉は。

「好きにして。私の事なら滅茶苦茶にしていいの。」

選んだセリフがそれですか。

「ギリギリを攻めてみた。このくらいなら私達の子供達が出て来なかったから大丈夫。」

なんなんだろう、私達の子供達って。


ミズーリを引き剥がして席に着かせる。

もうすぐできますよ。

サイドテーブルを出して鉄板を置きバターをざっと溶かす。塩胡椒を振ったサイコロステーキを鉄板でざっと炒める。」ステーキソースと和風ソース(大根おろし付き)はお好きな方を。

鉄鍋には粒とうもろこしにこれでもかとバターを投入。

にんじん、ブロッコリーも鉄板の隅で焼き全食材に火が通ったら盛り付けて、仕上げはミニトマトにマヨネーズを乗せる。

お肉にはアイスねと、ミズーリは冷蔵庫からアイスを二つ取り出してそれぞれの席に置いた。

今日のミズーリお気に入りはコーンバターだった。ステーキをフォークに刺してテーブルを叩いて満足を表していたミズーリだが、コーンバターを一口食べると私の鉄鍋も黙って取っていく。この女神は本当のお気に入りを知ると独り占めしたくなる様だ。ならば豚汁はどうだろう。

「トール、七味ちょうだい七味。」

お気に召した様だ。七味唐辛子好きの童女。


「ごちそうさまでした。」

お粗末さまでした。こらこら食べて直ぐ寝ると牛になりますよ。お行儀悪い。

「ここ気持ちいいんだもん。絨毯も気持ちいいし、あそこのソファもベッドも。この家どこもかしこも気持ちいい。」

その様に作りましたからね。

「なのでしばらく偶蹄目になりますモー。」

モーモー。

後片付けを終えた頃、ミズーリはふかふかを下さいと私にねだり、ふかふかのバスタオルを持ってお風呂に入って行った。

洗濯するからと私の下着を剥ごうとしたけど、明日からにしなさいと言うと大人しく諦めてくれた。ミズーリに童女の女神がオカン化という、もう何が何だか分からない属性がついてしまった様だ。

どうしよう。


さて駄目人間になる時間だ。

ソファに腰掛けリストから選んだのはサイコロの旅。サイコロステーキからの単純過ぎる連想。ミズーリの過去の発言を思い出すと知っているのだろうけど、久しぶりに見てみよう。心底ダラけきって見ていると、可愛らしいパジャマを来たミズーリが冷蔵庫から牛乳を取り出してちょこんと座る。

「ねえトール。」

「何かな。」

「飲み物の置き場所欲しい。」

「はいよ。」

大人の私には問題ないが、童女の身体だとコップが負担になるのだろう。ローテーブルと脇息を出してあげる。ミズーリは脇息に牛乳入りコップを置くと、頭を私に預ける。

この子はリラックスすると私に触れたがる様になった。妻だ子供だと騒ぐ女神様であるが今の姿は父親に甘える娘にしか見えない。

「爛れた親子関係という設定もいいわ。」

しまった。この子のそばでは迂闊な事を考えちゃいけないというのを忘れてた。

なお、ミズーリは番組の存在を知らずに私の記憶からワードを拾っただけだった。

荒井注は知ってたのに。

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