第45話 たまには真面目な二人
土地の意志と名乗る存在に、私達は王都に行く事を頼まれた。
それはこの国を旅する私達の目的地の一箇所なので断る必要はないが、何が起こるか分からないというのは…
別に困らない。それだけの対応力を私達は持ち合わせている。
神に力を使わせない為に私を動かす。
それは何故だろう。考えてみよう。
「意志は邪悪ではないのね。」
違うな。
「私にはその色は無色透明に見えた。シュヴァルツ領では、その存在は黒く感じた。」
「黒が邪悪で透明が善という訳じゃないでしょ。」
あれは住民の色と言っていた。
「悪とか善とか、そんな定義自体ないのではないかな。あれには。」
「その存在と直接コミュニケーションを取れたトールには、推測出来る事何かある?」
一つある。色が住民そのものを表しているならば、透明と言う色に意味がある。
「ミズーリ。」
「はい。」
「神様に問うのはあまりに失礼だと思うが敢えて聞く。君は自分の神性というか人間性をどの様に思っている?。」
「何度も言う通り、神は欲望の塊。それは否定しないわ。人間だったら倫理感というものを育てて社会に安定をもたらすけど。」
実際、倫理感も自分で決められる独裁者は自らの欲望を隠さない事も多かった。それだけの力を持っていたからだ。
「神はそれだけの力を皆持っているわ。違う点としては神は権力を求めない、権力を持っても意味ないから。なんでも出来るのにわざわざ他人を抱えるなんて面倒なだけでしょ。皆個人の欲望だけに忠実だから争いは起きない。」
起きたらそれはラグナロクだ。
なら君は自分の色をどう評価する?
「桃色。」
躊躇わないね
「躊躇わない勇気!」
ハイハイ、ならば透明な人間とは?
「聖人。」
そんな人に会った事は?
「ありません。女神ですけど。」
つまり透明な人間性を持つ人間とは?
「いない。そんな欲を持たない人間はいない。…この国の兵隊を私が殺し尽くしたから?人間がいなければ欲もない?」
そんなところかな。おそらくあれには善も悪もない。
シュヴァルツ領で黒く感じたのは人間が多かったからではないか。人間の本質が本来欲深く黒いから、存在も黒くなる。
私達は虐殺した。だがあの程度ならばこの土地の意志に倫理感というものがあったとしても、何の影響も与えない。そして人がいなければ存在は汚れない。
「女神でも少し凹むくらいだったのに。」
「考えられるとしたら、この国に死は珍しくないのだろう。医療が未発達ならばよく死ぬ。」
戦前の我が祖国・日本だって子供を沢山産んだが沢山死んだ。人口が1億を超えたのは戦後医療と保険が充実した高度成長期以降だ。
「私に関わって欲しくない理由は?」
「正規軍を一撃で全滅させたからだろう。」
あの時君は、奇跡や迷信に免疫がないという様な事を言っていた。神の存在はこの世界にはあまりにも優しくない。それだけ思想というものを発展させる余裕が無い世界なのだろう。神の優しさはこの世界の人には辛すぎる。だから、人間の限界が分かる元人間の私に頼んだのだ。
「貴方は何を為すの?私には貴方に何が出来るの?私は神なのに、分からない。何も分からない。」
私に言える事は。
「ミズーリ。」
「はい。」
「君は私の隣にいてくれれば良いんです。私の心が折れない様に。毎日私の作るご飯を食べて、毎晩私と一緒に寝て、毎日楽しくこの世界で笑ってくれれば、それで良いんです。」
ミズーリは私の手を取りギュッと握った。
「それにこれは、君が天界に帰る一つの手順だと思う。君には君のやるべき事は絶対にあるはずだ。だからミズーリ。」
「はい。」
「頑張れ、二人で頑張ろう。」
「うん。」
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