第39話 光

とはいえ、私もミズーリもお互い少し空元気を煽っている事は分かっている。

こういう時はテンションが上がる食事を用意しよう。

焼肉、フランクフルト、焼き鳥(モモと皮を塩で)、とうもろこし、ピーマン、玉葱、あと何出そう。

焼肉はタレに漬け込み、フランクフルトは表面に切れ目を入れて、とうもろこしは軽く塩茹でしておく。ピーマンは大雑把に二つ切りにして種を取り、幾つにかは挽肉を詰めておこう、私が好きだから。玉葱は皮を剥くとそのままスライス。あとおにぎりも用意しておき、冷たい軟水、冷たい緑茶、脂を落とせる温かい烏龍茶を並べると

ほらもう。ミズーリのワクワクさんが止まらなくなった。

ではここで。ばばんと取り出したるは、鉄板と鉄網。そうです。BBQです。しかも万能さん特製無煙仕様なので室内でも安心。

食材をポイポイ乗せたミズーリが深刻な顔して焼き具合を測っているのを横目に、おにぎりを網にかけ焼き色をつける。

表面が軽く焦げ始めたら、はけで醤油を塗って焼いて塗って焼いて。はい、焼きおにぎりの完全です。

ここでイレギュラーが起こった。普段なら私の向かいでテーブルを美味い美味いと叩いているミズーリが私の隣に座ったのだ。

「トール。あーん。」

女神が本格的にデレた様です。

「当たり前でしょ。こんなに女の子を想ってくれるなら、私は正面から受け止めて貴方に好意を返すだけです。」

それは君が無事成長して天界帰還の目処が立った時に、私が君の為に用意していた言葉なんですが。盗作されたぞ。

「トールと私には私有物なんかあり得ないから。心も想いも身体も。全部共有物。」

恥ずかしいです。あと玉葱がまだ生です。

「玉葱は生でも食べられる!」

私の肉詰めピーマンを食べられた。

「貴方の物は私の物!私の物も私の物!」

日本で一番有名なガキ大将降臨。

とは言うものの、自分の口が塞がっている時はミズーリ手づから私に食べさせたがり、手が空いた時は私にペタペタ触り。

とにかく私に世話を焼き、私に触れる事で元気になるならいいでしょう。

娘が父にべったり離れない構図ですが、これはこれで私も結構幸せを感じているので。


無事二人とも満腹になり満足になり元気になった。

後片付けを済ますと私の入浴タイムだ。

直接手は汚していないとはいえ、さすがに殺し過ぎた。なんだこの言葉は。

私のクソ真面目な学生生活、社会人生活の中で見た読んだフィクションでもあり得ない感想だ。

果たしてこれがミズーリを天界に返してあげる事に繋がっているのだろうか。

悩みついでに湯船で溶ける事にしようか。


そういえばミズーリは浴室を広げて欲しいと言っていた。いつもの下ネタかもしれないが女神は嘘をつけないしな。

お風呂も適当に考案したものを万能さんがデザインし直してくれたものだ。当初は実用性しか考えていなかったからなぁ。

ふむ。とりあえずは、浴室と湯船を倍の広さに。脱衣室もきちんと作って、洗面台を。

あれ、大学時代の私が居る。そうか、鏡はこの世界に来て初めてみたな。嫌だなぁ。この青臭い顔。でもまぁ、ミズーリが良いなら良いか。脱衣室の床は細竹を敷き詰めてみた。

歩いてるだけで濡れた足裏の水分が落ちる。

鏡の上に扇風機は大浴室の定番、籐の椅子も作ってみた。ドライヤーをどうしようと考えただけで万能さんが全自動無電源の前世でもあり得ないものを作ってくれた。

あと装飾などのデザインはミズーリと二人で決めよう。


入浴を済ませたらDVDを見ようと思っていた。ミズーリが好きだと言ったドリフでもと部屋に戻ると、女神がピンクでシンプルな着物を来て正座していた。

「お待ちしておりましたトール様。」

思わず身構えるが、顔を上げたミズーリの見た事もない優しい顔に混乱する。

「お願いがございます。お召し物をお脱ぎになって下さい。」

ミズーリはそう言うと立ち上がり自ら着物を脱いで全裸になった。

「一緒に。」

なんだか分からないうちに私は室内着を脱がされベッドに誘われた。抵抗出来ない。

何故か抵抗してはいけない気になる。

何も分からない。何も考えられない。

そのまま私達は全裸でベッドに入り、





何もしなかった。

ミズーリは、全身を私に密着させ片足を私の足に絡ませ両手を私の胸にそっと当てると、そのまま眠ってしまった。

いつの間にか、部屋の電気は消されている。でも分かる。ミズーリが薄く光っている。私も薄く光っている。これは何らかの儀式でもあるのだろう。

ならば私は女神に従うだけだ。目を閉じると私にもの凄い初めて味わう感情が押し寄せてきた。分かる。これが女神ミズーリの言う多幸感なのだろう。ミズーリの顔は布団に隠れて分からないがずっと微笑んでいる事は分かる。

私には今ミズーリの全てが分かっている。

そのまま私は静かにミズーリと共に寝息を立て始めた。

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