第37話 幕僚会議

申し上げます。

伝令が帰って来た。

北に展開した我が軍、全滅です。

は?全滅?何を言っているのだ?

300人もの完全武装した正規軍だぞ。

兵も馬も誰も生きていませんでした。

死体だけが転がっていただけでした。

スタフグロ所属正規兵は全員行方不明との事です。

まて、相手はただの親子連れではないのか?単に拘束してこの街まで連行してくるだけではなかったのか。親子連れはどうしたのだ。

不明です。

…何故か?

捜索にあたった兵、全員死んでいるからです。

……分かった。今から上奏するので着いて参れ。

申し訳ありません。閣下。それは今不可能になりました。

何を言っているのだ。着いて参れ。

復唱させようと目の前の伝令兵を見て驚いた。死んでいた。左足首が伝令兵の身体から離れて転がっている。

誰だ?今、ついさっきまでこの兵の左足首は付いていた。普通に駆け抜けて来たのだ。

誰がどうしたらこんな所業が出来る。

恐怖に一歩も動けない。しかし、周りには誰もいない。敵も、味方も。

数分固まっていただろうか。

私は震える足を必死に叩いてエドワード公の執務室に向かう。ありえない、自分でも一切信じられない報告と体験を伝える為に。


翌日には正解な報告が上がってきた。

確かに平原に展開させた兵は全滅していた。

そして、全員の左足首が斬り落とされていたという。なのに戦場には血が流れていない。

全員の左足首には止血がなされていた。

どうやって?戦場に於いて、相手の左足首だけを切断し止血する。それも全員。

不可能だ。どうやっても。

領内各地から同僚が駆けつけている。だが、全員に従者がいない。各地から引き抜いた兵達は北の平原で死に絶えたからだ。

それに彼らを収容する人すらないのだ。

エドワード公を中心に幕僚会議が始まる。

まずは報告。密偵の知らせによりシュヴァルツ領内の組織が全滅。その事件関係者と思われる親子連れを追ったエドワード領内の組織が全滅。その親子連れを追ったスタフグロ兵が全員行方不明。それとは別個に親子連れの拘束を狙った我が軍全滅。

まずは事実の確認を改めて出席者から問われる。事実なのである。何故なら私の目の前で伝令兵が倒れた。その兵の死体が運ばれてくる。左足首が斬り落とされて止血がされている死体だ。

彼は間違いなく私の目の前で死んだ。私が数瞬目を離した時には彼の足首はなかった。

そして彼の左足首からは一滴の血も流れていない。

何故親子連れを拘束しようとしたのか?

という、誰からともなく流れた声に、

言うまでもなく、それが私達エドワードの役目だからだ、と公が答える。

親子連れは何処に行った?分からない。現在密偵達が全国に散っているが未だ発見の連絡がない。

ここまで聞いたエドワード公が言う。親子連れは追うべからず。エドワード領を大人しく出るなら出してやろう。

反論がいくつも上がる。だが公はこう答えた。これ以上兵を殺すな。その親子連れの正体は災厄だ。親子連れを追いたければ将軍、おまえ一人で行け。兵を出す事は許さない。

反論の声は消えた。更に公が言った事に現実に引き戻されるのだ。

早く軍を再建せよ。と。

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