第28話 和式中華
エドワード領。エドワードはキクスイ王国王家分家にして、本家の血筋が切れた時に王家を継ぐ、いわゆる徳川御三家みたいな存在だ。
初代カンザザス王の姉の血筋だという。
私達は丘陵の形状からシュヴァルツ領に深く食い込む形になっている領界を超える。
シュヴァルツ家がある街はここからずっと南東にあたる。貫く主街道も南東に傾いているため、あいも変わらず辺境の地を私達は歩いている。つまり丘陵に沿った里道の、そこから更に入った草原を歩いている。
植生に多少変化があるのか、草の背が高い。
そして領界を超えて直ぐ予定通り(予想通り)うちの残念童女が騒ぎ始める
「ごーはーんー。」
私は別に空腹ではないのだけれども。
「ごーはーんー。私をこんな身体にしたのはトールなんだからね。責任とってよね。」
何故だろう。私はご飯を作る他に何もやってない様な気がする。
「ごーはーんー。」
分かりましたよ。面倒くさいからラーメンでも作りますか。
「あと、今日はここら辺をキャンプ地とする。わよ。」
この先中途半端に人が増えてくるから、ここで時間調節した方がいいらしい。
では。寸胴鍋に生麺を投入。今日はシンプルに醤油と鶏脂で。ネギを白髪に切り焼豚、メンマ、ナルトの王道東京ラーメンにする。
一応お茶碗にご飯も付けて、おろし生ニンニクをお好みで。
ミズーリはいつものようにテーブルを叩く事はなかったか、無言で啜り続ける。麺がなくなったらご飯をラーメンどんぶりに入れてレンゲで黙々と、そのまま顔中どんぶりにしてスープを最後の一滴まで味わった。
「深い。」
はい?
「分かんないけど、なんか色々可能性があるの。美味しいんだけど、まだ私にも何か出来る。でも美味しい。分かんない。また食べたい。」
そりゃラーメンだけでとんでもない種類がありますからね。今日のラーメンは単に私の好みってだけですし。
なんかぶつぶつ言い始めたので、女神はそのままにして新しい道具を万能さんから出した。
ドローンである。丘を並走する何かを調べるものを考えるうちに思い付いた。
ただし私には経験がないので、操縦と画面は直接脳に反映させてみた。出来た。
少しだけ離れた丘麓に大きな木があり、その下は草も少なく良さそうだ。
ラーメンどんぶり見つめてぶつぶつ言ってるミズーリを、万能さんがテーブルセットごとキャンプ地に運び、バンガローを展開する。
テーブルセットごと、椅子に腰掛けている女神がふわふわ浮いているシュールな光景。
思い付いたのでバンガローを少し広げ、テーブルセットをミズーリごと屋内に据える。もう一つテーブルセットを作って外に置く。まだ陽は高い。何をしようか。いいのかこんな調子で。
「いいのよ。」
そうですか。
そうもいかない気がする。ミズーリはそろそろ考える事を放棄したみたいだし,大雑把な指針だけでも私が立てておこう。
まずは地図かな。地図地図。
万能さんが出してくれたのは「天界地理院謹製5万分の1エドワード北部5」と「天界地理院謹製マップル・キクスイ王国」。
何やってんだ神様。
地図を眺めていると陽が傾いてくる。とはいえ晩御飯にはまだ時間がある。ならばバンガローを充実させてみよう。まずは絨毯だ。
折角タダで出来るのだから、毛の長いふわっふわの奴。
「うひゃあ。」
勝手に出したので、バンガローの中から女神の間抜けな声が響いてくるけど放置。
それから流しだね。普段は私がペットボトルから出しているけど、本格的にバンガローを持ち歩くわけだから(珍妙な表現3回目)、バンガローを展開している時はミズーリにも手軽に使って貰おう。あれはあれで私に頼み事する時は遠慮しているのだ。あと、トイレ。洗浄機付きの奴。ミズーリは女神で食べた物を排泄する必要はないみたいだけど、私は流石にノグソはもう勘弁なので。というか何故今まで作らなかった?実は開放感が新鮮だったんだよ。
ごちゃごちゃ作成に精を出していたらミズーリが思い詰めた顔で外に出てきた。
「トール。ラーメンの種類って他にどんなものがあるの?」
昼からひとりでずっと考えていたのか。
「醤油、塩、味噌、豚骨。派生系としてカレーもあるな。」
「全部作って。」
「飽きるから嫌だ。」
ラーメン大好きミズーリさん。
「なら味噌。朝食べたお味噌汁が美味しかったから味噌ラーメン!」
あの味噌とは味噌が違うのだけど、万能さんにお任せします。
「あとご飯。何あれ。お汁に入れたご飯が美味しいの。」
ヤバい。女神様がどんどん安っぽくなっていく。あと語尾が「の」になってる。低脳化が始まる。
「いや、ラーメンライスは確かに美味いが健康に良い取り合わせではないんだ。」
初めて知ったみたいで私の中の万能さんが動揺している。
「なので別メニューを添えます。」
と言っても味噌ラーメンだからなぁ。炒飯と餃子くらいしか思いつかないけど。
「全部食べたいの。」
はいはい。
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