第26話 粉ものの破壊力

出発して数時間。草原は尽き里山を思わせる丘陵に沿い南に方向転換していた。

細い里道は丘に並行して伸びているが人影は殆ど無い。

ここまですれ違ったのは二人。いずれも肩に小さな箱を担ぐ人だった。

ミズーリが言うには、手紙を配達する職人。飛脚みたいなものか。

「そんなに走ったりしないけど。」

なるほど。

それでもこんな里道に私達の様な組み合わせは異質なのだろう。

二人とも私達を凝視しながらすれ違って行った。

トラブルは私が天界に戻る手掛かり。

ミズーリはそう言ったが、当の女神がトラブルを面倒くさがり道から外れる事を提案して来た。

確かにシュヴァルツ領内ではこれ以上勘弁だ。

太陽の高さと腹時計を測っていると、ミズーリがワクワクし出した。

両手を握りしめワクワクワクワク目を輝かせている。聖なる女神様が涎垂らしてジュルリとか言わないの。


「今日はソースを焦がします。」

「わー。」

椅子に腰掛けたミズーリの拍手が止まらない。

さて、何を作ろう。粉ものを作ろうとしか考えてない。とりあえず鉄板をテーブルに乗せる。卵、蕎麦、キャベツ、豚肉、紅生姜、そして小麦粉を並べる。

「いっそ全部作るか。」

「賛成賛成大賛成!」

この女神は時々人のリビドーを残念な方向に刺激するくせに(必死さが丸見えなのと、残念ながら身体がお子様なので)、自分が素直に嬉しい時は全身全霊で喜びを伝えてくれる。だから私も彼女の願いを全力で叶えたくなる。

食材にうどんとご飯を追加。

小さなボールに小麦粉を溶き、キャベツや豚、目玉焼き、肉は別に炒める。

勿論珍妙にも勝手に炒まっているわけだ。こちらのスペースでは、焼き飯・焼きそば、焼うどんを作成。

わかるね。お好み焼き、蕎麦飯、焼うどんの完成。最後は青海苔をたっぷりと。

ビールが欲しくなるが、ミズーリの身体が子供な事を考えて我慢。

「どうせ体内以外で分解されちゃうから大丈夫なのに。」

「とは思いましたが、君の身体の成長に悪影響が無いとは限りませんからね。」

「そうね。早く大きくなって貴方に沢山愛してもらわないといけない身体だもんね。」

「子供の飲酒が君の天界帰還に影響が無いと限りませんからね。」

スルッとスルーすると、分かりやすく頬を膨らます女神にヘラを渡して、出来上がったお好み焼きを食べる様促す。

今度はお好み焼きで頬を膨らますとボロボロ泣き始めた。 

「ずるい。貴方はずるい。こんな最終兵器を私に隠してた。」

見たか。ソース焦がしの威力を。

焼きそば、蕎麦飯、焼うどんを順番に食す女神様の目からは最後まで涙が止まらなかった。


食休みをした後、今日はちゃんと出発する。

ダラダラしててどこかの騎士さんを呼び入れてしまった昨日の反省だ。

うちのへっぽこ女神も反省というものが出来るのだ。

「晩御飯のメニューはなぁに?」

へっぽこはへっぽこだけど。

「へっぽこへっぽこ言うな!」

ならやっぱりポンコツで。

へっぽこ女神がポカポカ私の腰を叩いてくる。一通り叩いてスッキリしたら私の手を催促する。愛しい人と言われたが娘だねこりゃ。

夕方、陽が傾くと更に西に進み、丘の麓でいつものバンガローを取り出す。

テーブルセットにオレンジジュースを置くとミズーリがすっかり罠に堕ちて溶けている。

今日は増築をしよう。いや単にお風呂に入りたくなったんだ。

一部屋増やして湯船(檜で作ってみた。私の健康管理に積極的な万能さんは、私の念以上の立派なモノを拵えてくれた。)とシャワー。お湯の温度は42度で。足元はタイル敷きで排水口もあるけど、排水はどこに行くんだろう。

晩御飯はミズーリのリクエストで昼と同じもの。ただしお好み焼きではなくもんじゃ焼きを希望された。私の知識はそんなに読みやすいのだろうか。

お風呂に先に入らせてみた。

「私は女神。身体なんか汚れないの!」

と威張っていたが

「トール!トール!何これ凄い気持ちいいの。あったかいの。」

のののと叫びながら低脳化し、全裸で浴室から飛び出してきたので

文字通り全裸土下座をさせると再びお風呂に放り込んだ。しばらく歓声が絶えなかった。

代わりに私が入浴を済ませて出てきた時には既にミズーリはベッドで寝ている。

起こさない様に隣に入ると、彼女は寝たままニヘラッと笑って私にしがみついて来た。

今夜も私は女神様の抱き枕決定ですね。

尚、丘の方では何者かがずっと私達と並行してついて来てましたが、ミズーリが警戒してないので放置する事にしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る