第23話 カレーうどんとおっぱい

目が覚めた。ミズーリも同時だ。

このバンガローでは内外に何かがあれば私達が自動的に目が覚める様になっている。

今日の目覚めの原因は隣のベッドの住人だった。

「なななななな。」

「なが多い人だ。」

そんな事を言うミズーリには初めて会った時、そそそ攻撃食らいましたっけ。

「貴方達親子で何やってるんてますか!」

ゲストのアリス嬢が私達のベッドを指差して混乱している。絶叫している。

「親子ではないが。」

「親子じゃないわよ。」

「余計…余計悪い!」

ビシッと私達を指差すシュヴァルツ家の騎士さん。

なんかやったか?と見渡せばミズーリが上半身裸だった。

「ミズーリ?」

「はい。」

「何やった?」

「うーん。ぱんつは履いてるから大丈夫?」

「自信ないのか?」

「とりあえず朝から土下座すれば良い?」

朝から同衾していた半裸の少女を土下座させる親ではない男。騎士さんの脳回路が処理オーバーをしたらしい。

なななななななななななななな

な、しか言わなくなった。

面倒くさいからミズーリに丸投げしよう。

「昨日のカレーで朝飯作る。ミズーリは騎士さん連れて裏のタライて洗顔してきてくれ。」

万能さんには頼んで今出したんだけどね。

「はーい。」

私のご飯が食べられれば何でもオーライな女神は今日も素直ですね。


さて、夕べミズーリまでカレーを食べ出したからな。ちょっとルーので残りが心許ない。

ならばこれだ。

出し汁代わりの麺つゆでかさを増すと、小麦粉を少々。ねぎを斜め切りして蒲鉾も追加。

あとは、豚肉と混ざるけど鳥ミンチでつくね団子も入れて一煮立ち。

その間こちらの鍋でうどんを茹でる。

カブとナスときゅうりの浅漬けを小鉢に盛り付けると、七味、辛子、醤油をお好みで。

白いうどんをどんぶりによそい、お玉でカレーを掛け回す。カレーうどんの完成。


顔を洗った二人は大人しく席についた。

女同士でなんらかの話し合いがあり納得した様だ。

しばらく考えた私は万能さんにちょっと特殊なお箸を発注した。お子様向けに滑りにくい箸だ。ミズーリは箸の使用に問題ないが、騎士さんに箸の使用は難しかろう。一応フォークも用意したが、見様見真似で箸を起用に操り出した。

途端に二人ともンーンー言いながらテーブルをバンバン叩き出す。

騎士さんは私を見て涙目になっている始末だ。何よ。


朝食が済むと私は昨日出した馬を呼ぶ。

少し離れた所で草を食んでいた馬は待ってましたと走ってくる。

首筋をポンポンと叩くと嬉しそうに私に顔を擦り付ける。

「昨日、貴方が就寝された後、私達は話し合いました。シュヴァルツ家遊撃隊ミライズ・アリスさん。」

シュヴァルツ家の名前が出ると騎士さんはさっと姿勢を正した。

「この馬を貴方に貸与します。貴方はこの馬で次の伝馬町まで急行して下さい。馬は私達によく懐いているのでそのまま離してくれれば勝手に帰ってきます。私達はただの旅人ですからね、この国の危機はこの国の人が乗り越えなければなりません。」

それだけ言うと騎士さんは抜剣すると自らの顔の前に立てた。捧げてくれたのだろう。

「確かにその通りです。馬まで貸して頂き感謝の限りです。私は私の仕事をします。」

「ねぇアリスちゃん。」

「なんでしょうか?」

「貴方、今何か怖い?」

「! 確かに。昨日まで私を追い立てていた気配が消えてます。」

「よくないものが貴方の後を追いかけていました。このまま街に戻ればよくないものは多くの人達を前に暴れたでしょう。」

「そんな事が…。」

「でもね、このトールが退治してくれました。貴方にはもうよくないものはいません。貴方は貴方の役割を果たす時です。」

「はっ!」

騎士さんは私達に改めて剣を捧げると、騎乗し去って行った。

「さらば。」

涙と涎と鼻水で顔中ビチョビチョにしてた騎士さんはほんの数時間で立ち直り、背筋を真っ直ぐ伸ばして小さくなっていく。


「昨日とは別人だったな。あれが彼女のホンモノか。」

「ねぇトール。私が裸だった理由が分かったの。」

「ん?」

「おっぱいが少し膨らんでいます。だから上着が窮屈になった様です。」

そう言うとミズーリは私の手を掴んで自らの胸に当てる。

「ふむ。確かに。推測できる理由は?」

「揉めよ。」

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