第22話 どこでも馬

アリスの告白が終わった。ああ、やっぱり私達が絡んでる。

「鬼は退治したんじゃないのか。」

「あの村はこの国の東に当たる。西の銅鉱山とは正反対ね。」

「ならもう一体現れたと。」

「別に鬼は一回に一体しか現れませんなんて規則はないわよ。あくまでも鬼の都合なんだから。もう一つ言うなら鬼が現れるのは辺境だけとは決まって無いわよ。」


ちょっと待て。彼らは何を言っているのだ?

鬼を退治した?そんな事出来た国は今までどこに無い筈だ。

「待て。貴方達は何を言っている?」

「言ったままだよ。信じる信じないはご自由に。」

「…本当に鬼が退治されたのか?」

「私に言えるのは、それを確かめるのが貴方の仕事という事。」

その通りだ。確かにその通りだ。

「ならば私は」

「どうするのよ。貴方の身体は一つしかないわよ。」

「貴方達に協力を願いたい。」

深夜に食事を振る舞ってくれた謎の親子連れに恥ずかしげもなく私は懇願した。

「ただの旅人に何を求める?」

「ね、私なんか見たままの子供なのに。」

随分ともの事をはっきり言う子供だ。しかし、その子が言う事は正しい。

私が一番最初にすべき事はなんだ。考えろ。優先順位をつけろ。

「とりあえず、貴方はこのまま人の多い所へは行くべきでは無いわね。」

「え!」

「貴方、何から逃げているの?誰も貴方の後を追っていないわよ。小日向の町の狂人?

狂った人に街道からも外れたここが認識出来ると思う?」

そうだ。確かにそうだ。私は何から逃げていた?でも分かっていた。私は誰かに追われている。ずっと追われている。今この時も、あいつは私を見ている。だが?あいつって誰だ?


「寝ちゃったぞ。」

「寝て貰ったのよ。」

考え込み始めた騎士さんはテーブルにうつ伏せになって寝息を立て始めた。

「ケッタイなもの背負ってたからね。このまま王都にでも行こうものなら、多分この国終わってた。」

「ケッタイなもの?」

「分からない?トールなら分かる筈よ。」

「私には得体の知れない黒いものが、さっきからバンガローの周りをふらふら飛んでいるものしか分からないが、あれか?」

「結界張ったから近寄れないけどね。多分、このアリスちゃんについてきた鬼の一部。」

またまぁ面倒なものを。

「というわけでトールよろしく。」

「丸投げかよ。しかしこれ身体ないんだよな。魂だけだよな。」

「何やっても血が出ないから多い日でも安心。」

「君、まだ生理始まってないんでしょ。」

「だから妊娠しません。男の夢が今貴方のもものに。」

本当に緊張感がないけど、これ俗に言うボス戦ではなかろうか。

「中ボスの色が変わって再登場ってパターン。よくある奴という事で。」

この女神の知識量はなんなんだろう。

「ん?トールから貰ってるだけよ。」

そういえば心の声を読み取る事が出来ましたね。

さて、悪ふざけはこのくらいにして。魂ですか。よくあるパターンなら魂喰いって奴で退治しますか。右手に刀の存在をイメージして。来ました。バリバリに日本刀ですね。

早速振ってみた。

「ソウルイーター!」

ミズーリ、何故君ががなりを入れるんですか、そして何故ドヤ顔?

あ、ちなみに黒い影は跡形もなく消滅したね。万能さんに確認して貰ってもオールクリア。


「さて。このアリスちゃんだけど、疲れてるだろうし、とりあえず朝まで寝て貰いましょう。」

鬼の分体を滅ぼしたので、銅鉱山にいる本体はしばらく大人しいだろう。とはミズーリの予測。

女性を外に寝かせておく訳にもいかないので、バンガローに使わなくなったベッドをもう一度出してお姫様抱っこっで移動させる。

「さて、おいで、どこでも馬〜。」

青い猫型ロボットの真似を薄くしながら万能さんに念じると、ものの数秒で馬が駆けてきた。水と飼葉をバケツに与えると嬉しそうに私に顔を押し付けてくる。が、とりあえず今は興味がない様だ。私に礼をしただけかな。

「馬。」

「馬。」

「どうするの?」

「この先を判断するのはアリス嬢自身だ。私達が介入すべき事ではない。この馬で次の伝馬町へ行く事だけは進言しておこう。」

「トール。」

「何かな?」

「私もお姫様抱っこ。」

ハイハイ

「私を貴方のベッドまで連れて行って。」

ハイハイハイハイ(棒)

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