第20話 三晩連続なんですが

私達はそのままランタンさんを持って外のテーブルセットに移動した。

ミズーリが鍋を覗いて冷たいカレーをつまみ食いしている。

一晩寝かしたカレーは明日もっと美味しくなると伝える。

「楽しみです。トールの料理は明日の事も考えて作られているのね。」

椅子に座って私を褒め称えてくれる。

少し顔が近い。

「今までくっついてなのに今更じゃない。」

まぁそうなんだけど。

「それに私の全裸も見てるし。」

君が言うと君の変態性が増すだけだろうに。

「トールとなら構わないわ。昼は貞淑な妻、夜は娼婦の様な妻。これが私の理想です。」

一部賛成出来るぞチクショウ。

「でも、明日無事カレー食べられるかしら。」

「今からくる人も一緒に食べても充分な量作ってあるから大丈夫。大量に作った方が美味い料理もあるんだ。」

「トールさん愛してます。メロメロです。早く私を食べて下さい。今すぐさっきの続きを。」

近くで恐怖に追われて逃げて来ている女性がいるのに、私達の会話になんら変動はなかった。

しかしまぁ、今晩も素直に終わらない。この世界に来て毎晩じゃないか。


少しずつ少しずつ駆け足の音が近づいてくる。とりあえず万能さんから冷たい水を出す。

ピッチャーも出すからいくらでも飲めると思った先からへっぽこ女神が飲み出す。

「だってトールのお水美味しいんだもん。」

仕方ないのでもう一本出して来客を迎える。

あ、転んだ。

起き上がった。

泣きそうな顔でこっちを睨んでる。

「お願い。助けて。」

早くそう言いなさい。


女性は騎士だった。本人がそう言うならそうなんだろう。

「私はシュヴァルツ家遊撃隊所属アリスだ。」

また可愛らしい名前だな。シュヴァルツ家?

「キクスイ王国の伯爵貴族よ。この辺りが領地ね。」

「また面倒な事になりそうだな。」

「とにかく話を聞きましょう。」

とりあえず水飲みなさい。

「この透明な入れ物はなんだ。」

「普通のガラスだが。」

ああそうか。この世界のガラスはまだ透明度が足りないのか。

「正解。土中のガラス成分を加工してるだけ。飴色のガラスが普通ね。」

「美味しい。」

騎士さんが呟いた。

「美味しい。美味しい。なんだこの水は。」

普通のミネラルウォーター(軟水)ですが。

「だから言ったでしょ。トールの水は美味しいの。」

「とりあえず元気は出た様だ。おい、そこの騎士さん。腹具合はどうだ?」

「あ、ああ。今日は朝から何も食べてないのだ。何かあるならお願いしたい。」

ならば、とカレー鍋に着火。(火は使わないけど)。ご飯は真空パックの物で。

どう隠そうかと思ったけど、騎士さんは水を飲む事に夢中でこっちを見てない。

ミズーリが指で合図を送ったので、なんらかの精神誘導をしたのだろう。

すぐに温まったので白い皿にカレーライスを盛り付けた。ミズーリもちゃっかり御相伴にあずかっている。

カレーは初めてなのかスプーンで突っついていた騎士さんは、向かいでスプーン加えて幸せそうに悶えているミズーリを見て覚悟を決めたらしい。

一口目のその複雑な味に、こちらもテーブルを叩き始める。

元の世界では定番のカレールーではあるが、スパイスは沢山入っているし初めて食べるカレーとしては贅沢過ぎる。

女二人が深夜にカレーをガツガツ貪り食う空間で男一人。

ああ、タバコでも吸えたらなあ。

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