第17話 ごーはーんー
「ところでトール。」
ミズーリが口調を改めて話しかけて来た。
「トールさん。トール様。瑞樹くん。ねぇあなた。」
瑞樹くんの不意打ちに少しときめいた。
「私達2人の距離感を自由自在に操る女神力は分かったけど、並び方を考えてくれたら尚良しだった。」
「以外と好評な呼び方発見。いつか使おう。」
うるさいよ。
「それも夜に。」
それはやばい。ミズーリの成長次第では理性が保たないかも。
「トール。私達は朝ご飯を食べていません。」
ミズーリさんが朝から大量殺戮と大量精神崩壊作業で忙しかったからね。
「なのにもうすぐお昼です。私はトールの愛情ご飯を昨日の朝から食べてません。」
「だね。」
「もう我慢出来ません。私の体内からトール分の催促が止まりません。」
「お腹空いたか。胃袋鳴いてるの?」
「尚、私の胎内もトール分を要求してます。」
多分違う「たいない」ジョークを始めだのだろうけど放置の方向で話を逸らす。
「ならば草原に入って食事を作る場所を探そう。」
そう言うと、石畳の道を外れてガサガサ草の海に入って行く。
「そう言えば。」
「何?」
「昨日お昼を食べなかったな。」
「トールが何も言わなかったしね。私達女神、というか神族は天界の神気だけでいいの。本来なら栄養補給の必要ないもの。」
「なら今日は何故?」
「勿論トールのご飯を食べたいからに決まったいるでしょ。それに私はトールの所持品になったから、ご主人様の生活習慣に全てが引っ張られるの。」
うちのへっぽこ女神様は、私が生前に飼っていた夜行性の小動物みたいな生態に変わって来たらしい。
しばらく草原を歩くと、緑の枝を広げた木が一本立っており陽の光を遮る場所を見つけた。
「ここをキャンプ地とする。」
別にキャンプ張らないけど。
「わー。」
昨日作ったテーブルセットを万能さんから出すと、早速席に着いたミズーリが拍手。
差し当たり冷たい麦茶とリンゴジュースをイメージして二人分のピッチャーを計4本出す。
シンプルなガラスコップを氷付きで出すと、ミズーリは興味深そうにコップにリンゴジュースを注ぎこんた。
ンーンーとテーブルを叩き出したので満足らしい。ただのリンゴジュースなんですが。
「さて何を作ろうかな。」
お昼なら麺類か。
蕎麦うどんラーメンパスタ。
パスタかな。寸胴鍋に熱湯を張りいつも買ってたパスタとひとつまみの塩を投入。
因みに万能さんに念じたらコンロすら必要無くなった。勝手に茹でてくれる。
材料も前世で良くスーパーマーケットで買った商品がそのまま手元に現れてくれる。
パッケージの正確な記憶はあやふやだが、美味しければなんでも良し。
フライパンを作ってベーコンを炒める。勝手に炒まる。日本語がおかしいが目の前に展開する事実の方がおかしいのだ。
レタスとパプリカを適当にざく切りにして、茹でとうもろこしを足してドレッシングをかけただけのサラダを小皿に盛っていると、火周りからOKサインが来たので仕上げに入る。
おまけでハーブ茶を匂い消しに追加。
今日のランチは、ベーコンとニンニクたっぷりペペロンチーノにレタスサラダです。
うちの女神様がパスタを一口食べて溜息をつく。
「トールさん。私は今幸せです。」
「お粗末様。」
「夜の幸せとも違う幸せが、今私の全身を貫いています。」
いやらしい言い方しないの。
「このままトールのご飯食べてるだけで女神力上がらないかな。昇格しないかな。」
「食欲塗れのポンコツへっぽこ女神ぶりからすると降格される方ではないかね。」
「そうなのよねぇ。」
自覚はきちんと残っている様で何より。
ミズーリは口直しのハーブ茶どころか麦茶まで全部完食完飲して、上空の枝葉を見ながら少し呆然としています。
手掛かりが無い旅だから、食休みくらいはゆっくり取りましょうか。
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