第15話 その頃世界は

「女神ミズーリに何があった?」

創造神様が慌てています。

私は見習い女神。本来ならまだまだ修行しなければいけないのにポンコツな先輩が下界に堕とされたので、急遽引き上げられました。

さすが私と最初のうちは同期達にハナタカダカだったのですが…

ポンコツ先輩野郎が僅か2日間で大量の悪人を送り込みやがったのだそうです。

それもまぁ、見事に魂の天秤が怒り出す下衆野郎ばかりが。

ポンコツ先輩の代理で入った憧れの美人先輩からは直ぐ表情が消え、さらさらさらさらと殴り書きしたマニュアルを私に押し付けて逃亡しました。というか、自分の担当世界に閉じこもり出て来ません。

でもあからさまに悪悪悪悪の連続に見習いの私でも機械的に地獄が選別出来るので楽で良いかも。


そうこうしているうちにポンコツ先輩の神格が上がりました。

いや、そうこうってさっき創造神様からポンコツ先輩の代わりに昇格辞令を受けて何時間も経っていません。

創造神様が管理する神界議会に推薦書が提出され、受理されたのです。

でも創造神様は下界の事を隅々まで管理している訳では有りません。

今更ながらこの2日間のポンコツ先輩の軌跡を辿って見ると、村と街を救い悪党を150人くらい凝らしめていました。

ついでにただの人間を主とし、その人間の為に女神の能力を捧げるという前代未聞の宣誓が天界に送られて来た事が分かりました。。

天界はその偉大なるポンコツ先輩のポンコツ過ぎる愛を認め神格昇格に許可を降したのです。愛って何?強いの?おいしいの?

「ミズーリに何があったんじゃ!トールは何をしでかしてるんじゃ!」

創造神様は頭を抱えて右往左往している。

面白ーい。

私にはまだ理解出来ないし、創造神様の古い常識では推し量れない事態なのね。

ていうかポンコツ先輩って何者なのよ、そしてポンコツ先輩に女神の力を捧げられた人間って何者なのよ。

で、次々に送られてくる罪人の処理は、私の仕事はいつになったら終わるのよ。

見習いなんだから見習いに戻して。

面白がったのは謝ります。この通り土下座します。創造神様。

いやいや正式昇格とか嫌ですから創造神様。いやあああ!



執務室の扉が叩かれた。陽の傾きを確認すると秘書からの定時報告の時間か。

「入りなさい。」

「失礼します。」

私の秘書は清濁併せ飲み、我が伯爵家にとって最も正しい選択を選ぶ能力がある(私が)自慢の、我が国有数の能吏である。王国学校卒の平民であるが、彼を見出した私の能力も我が王より高く評価された。

「重大な報告が2点ございます。まずは辺境に鬼が出現しました。」

ついに我が領土に現れたか。辺境の地図を頭に浮かべながら報告の先を促すと

囚人の村に現れたが退治に成功したと。

信じられない。人類の歴史を遡っても鬼退治に成功した国はなかった筈だ。

「それは快挙ではないか。」

「しかしながら。」

悪い知らせもある様だ。

「小日向の街が滅んでいます。」

は?

「街を通過した旅人の話では、住人の殆どが死亡。生きてる人も居ますが全員発狂衰弱しており、回復は不可能かと。」

なんだそれは。鬼退治の分の厄災が小日向に降り掛かったとでも言うのか。

「なお、密偵の報告によると組織が全滅しました。」

「そ、それは。」

またとんでもない話だが、いったい草原に何があった?

「アジトとした古城が完膚なきまでに破壊され、その廃墟は人間の血肉がバラバラにされ装飾されている様だった。との事です。」

「…。」

絶句。いや、絶句以外何が出来る。

「引き続き情報の収集に当たりなさい。他の組織にはナワバリ争いをけしかけても構わない。私兵を出す事も許す。もし治安維持に不安があるなら正規軍投入を陛下に上申する。」

「畏まりました。」

秘書を下がらせると私はこの異常な報告について考え始めた。

守勢か攻勢か。おそらく我が伯爵家には重大な選択を迫られる事になるのでは?

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