第12話 女神が切れた

まぁ、大人しく街から出られるとは思ってなかったけどね。

街の出口で衛兵に捕まったのだ。

3人並ぶ衛兵の後ろには宿屋の親父がいる。

「少々お待ち下さい。」

無言で通過しようとする私達を衛兵達がブロックする。

「何か?」

「この方から貴方に対して被害届が出ています。少しお話しをお伺いさせていただきます。」

「お話しね。それは客の食事に毒を盛った事か、客の部屋に不法侵入した事か、連れを誘拐し私を殺そうとした賊を引き込んだ事か?」

嫌がらせにスラスラ並べると衛兵達の目付きが鋭く変わった。実にわかりやすい。

「いえ、この方を2階から突き落とし大怪我をさせた傷害容疑です。」

親父を見ると杖をついて私を睨み付けている。あれさっき杖ついてたっけ?

「ミズーリ?」

「確かに脚の骨も折れてるわね。」

衛兵と親父が具体的な骨折箇所を並べていくミズーリの説明にざわめく。

右鎖骨、左大腿骨、右奥歯、左肋骨2番3番

「なら治しちゃえば問題無いわね。」

それだけ言うとミズーリは親父を指差す。

「?」

親父の様子が明らかに変わったが、ミズーリの様子は一切変わらないのを見て軽く溜息をついた。ああやばい方の女神様モードだ。

「おっさん。あんたもう治ってる。自分でもわかるだろ。あんたの持病だったリウマチも一緒に治しといた。」

幼女な女神様の口調がヤンキーなんですが。

「あと昨日の賊は全員処分しておいた。言ってる意味は分かるな?」

親父と衛兵達の顔色が変わる。

「お、お前ら、お前ら」

最初に声をかけて来た衛兵が得体の知れない存在の私達を前にお前らしか言わなくなる。 

「ミズーリ。全員じゃ無いな。」

背後の建物3軒目、なんの変哲もない民家を振り返りもせずに親指で示すと

一言、「はい」とだけ返事を返してくる。

と同時にわかりやすく精神崩壊した男が飛び出して来て、そのまま向かいの商店の壁に体当たりを繰り返す。動かなくなるまで。

「トール。」

「何だ?」

「昨日のアジトってどこ?座標を教えて。」

「君らの言う座標は、私達が使っていた緯度経度とは多分違うのだろう。わかりやすく夕べの処分品が今ある所でいいか?」

処分品は万能さんが返品したからね。

ちょっと驚いたのはこの街ではなかった事くらい。

「充分です。」

「おい、お前ら何言ってんだ

立ち直った衛兵が文句を言い切る前に遠くに見えた丘の裏から大爆発が起こる。しばらくして爆音が私達の元まで届いた。

「あーあ。」

核とか使ってないだろうな、ポンコツ女神。

全員が腰を抜かした様で尻餅をついている。

「とりあえず誘拐組織は壊滅させました。生体反応は58人分有りましたが、アジトにしていた石造りの古城ごと全てカケラにしました。誘拐された人は居ませんでした。場所さえわかれば感情と罪状を読み取る事が出来ますから。」

淡々と業務報告をしてくれるうちの女神様。

「また元同僚の仕事を増やして。」

途端にふふんと腰に手を当ててドヤ顔し始める幼女女神に反省の色無し。いや、私が言えた義理ではないけど、何ですかこの大量殺戮コンビ。

「で、全滅ではなく壊滅とは?」

あれだけやって手加減する意味は無かろう。

「組織に直接所属していないけれど、協力者はいるから。そっちはそっちで別の処理するという意味よ。」

ようやく目の前の二人が何か異質なものと理解できた衛兵達が尻餅のまま、私達を見て化け物とつぶやく。

いえ、化け物ではなくですね。これでも女神様御一行なんですが。

全員慌てて這い逃げるがもう遅い。ミズーリが指を鳴らすと、処理該当者全員の精神が崩壊した。

ちょっと想定外だったのは、ここの街の住人の9割が対象者だった事だ。

ぷりぷりしながら街を出る女神の後を、やれやれとついていく。勿論全部放置して。

…親父を治す意味はあったのだろうか。

「嫌がらせに決まってるじゃない。」

そうでしょうね。

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