第10話 次の方
「さて、早速出発しましょう。今日中には森を抜けて街へ行きます。」
朝から人におかわりを作らせてモリモリ完食。元気一杯のミズーリが宣言する。
「出発はいいが、このバンガローどうします?昨日の村の建物と比較するとオーバースペックだと思いますが。」
あの村の建物は大して加工していない板を組み合わせただけ、前世で見た事のある、本家の曽祖父の家に残っていた牛小屋と大差ないレベルだった。
確か明治時代に、自分達で近所の空き家の廃材で組み立てたと祖父が説明してくれたな。
「そうね。製材して防水防腐処理して、扉にはアルミ蝶番にシリンダー錠。この世界からするとオーバースペックどころかオーパーツだわね。」
ふむ、なら持ち帰るか。でもそんな事…
…出来ますね。万能さんに念じたら消えました。もう一度出す事も出来ました。
「便利ね。」
「滅茶苦茶とも言うな。」
「それが神の力なんだから納得しなさい諦めなさい。ただ、私達は普段天界に居るからこんな事しようとも思わなかっただけで。」
「堕天女神は天界史上初の失態だったそうだが。」
「朝から泣くわよ。大声出して。」
ハイハイ。誰もいない森の中ですけど。
さっさとキャンプ地を片付けて元の道に戻る。
相変わらず人影は無い。たまに小動物がよぎるが、女神とその女神以上の何かに近寄る野生動物などいない。
やがて木々の密度が薄くなり、陽が天中に昇る頃には森を抜けた。
この森の道は隠し道なのか、利用が少ないのか。木々の切れ目以外目印が無く、足元の草原も20センチ以上草が生え揃い人が通った形跡を消している。
右も左も東西南北もさっぱりわからないがミズーリには問題無いらしく、けもの道すら無い草原をしばらく歩くと石畳の街道に出る。
時折同じ木が街道脇に立っている。ミズーリに聞くとどうやら一里塚の様な役割をして居るそうだ。
その道を小一時間(この世界の時間単位はわからないけれども)歩くと、地元民とすれ違う様になって来た。
街の外に作った農地の世話に行く人達だ。
そんな人が増えて来た頃、通称・小日向の街に着いた。
「入村パスみたいなものは必要ないのか?」
「城壁も関所も無いただの田舎町よ。旅人には宿と食堂が一軒ずつあるだけの。」
「じゃさっさとチェックインしときますか。」
「ですね。」
「何か目付きの悪い人がさっきから入れ替わり立ち替わりこちら見てるし。」
「夕べのお客さんのお知り合いかしら。」
「うーん。言っちゃあなんだが、ゆんべの連中よりは出来そうだな。」
「そんな事までわかるの?」
「万能さんが教えてくれる。」
「便利ね。」
今日2回目の便利ね頂きました。
早くも恒例となりつつある女神との軽口を叩きながら、街のメインストリートにある宿屋に入る事にする。
因みにこの街には宿屋が一軒しかないから、宿屋がそのまま正式名称だそうだ。
二階の一部屋に陣取り(ミズーリと間違いを起こす気はさらさら無い)お客さんを待つ事にする。
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