第9話 悪夢

森の泉に人がいる。

そんな連絡がアジトに入った。

普段、泉で休憩する商人は頑強な用心棒を連れている。一度襲ってみたが返り討ちに合い2人死亡した。以後、無理な仕事はさせていない。

所詮俺たちは田舎暮らしの盗賊団であり、訓練された人間相手と相対するには無理がある。

自身の能力を冷静に見極める判断力が、この田舎の盗賊団を長持ちさせてきた。

しかし今回は、優男とその娘だと言う。

こちらからの見張りに引っ掛からなかったところを見ると、囚人の村から来たのだろう。

囚人の村は辺境ながら豊かな村だ。

おそらく鍛冶商品に用があったのだろう。

あそこの鍛冶屋は腕がいい。

優男がどれだけの腕を持っていたとしても、別働隊に娘を確保させればそれで終わる。

それに新人を経験させるには打って付けではないか。

ベテラン6人新人2人。正直過剰ではないかとも思うが、新人育成の現場だと割り切ろう。


偵察に出した男が訳の分からない報告をして来た。

森の中の空き地に家が建っていると言う。

昨日まではただの空き地だった筈だ。

偵察に出した男を馬鹿にする幹部クラスのベテランを嗜める。

情報こそが俺たちを長生きさせる最大の武器なのだ。

だが、もう一人の偵察の報告によるとただの小屋とも言う。何の為だ?

直ぐ建てられる小屋なのかと聞くと、見た事もない見事な作りの小屋という。

とにかく俺達は泉に向かう事にした。


確かに見事な建物が建っている。

壁板は隙間なく一枚一枚大きさを揃えて、屋根には雨樋まで付いている。

大きさを除けば王侯貴族の屋敷でもここまで精密な作りの家はない。

泉のそばにはシンプルながら、こちらも見事なテーブルセットがある。

一つ一つが直線で揃えられ、なんだろう、見た事もない塗料が塗られている。

泉の飛沫が着いているが水滴となっている。

つまり防水処理が施されている訳だ。こんな技術は見た事ない。

囚人の村の新技術なのだろうか。


扉に耳をつけて居る男から合図があった。

どうやら寝付いて居るらしい。

俺たちはもう一度作成を確認してそれぞれのエモノを取り出した。


それこそが本物の合図だったらしい。左足首に激痛が走り俺は大地に倒れた。

俺だけじゃない。

そこに居る男たち全員の左足首がなかった。

何が起こった?考える暇もなく意識が落ちた。

初仕事の筈の男の泣き声が俺の死出への音楽になった。

不審に思う情報が有ればもう一度よく考えろ。先代の言葉を今更ながら思い出す。

気がついた時、俺は恐ろしく美しい女の前に居た。女は静かに俺の魂を測り地獄行きを告げたが、もう俺に考える能力は残っていなかった。

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