第56話

『んぁああん♡』


とても似合わない声とのミスマッチは聞いていて少し心が怯えた。


(って、あっちでは一体何が起きてるって言うの?!)


扉に耳を近づけて恐る恐る聞き耳を立てていたマリーは戦々恐々と事態がどう動いているのかを想像し、身震いをしながら聞いていた。


視覚を使うことができずに聴覚を頼りに扉越しの会話を想像し、聞いたことを後悔して…そして彼に感謝している。


もちろん最初の方は理解していた。


もともと男尊女卑の考えを強く持つよくいるパワハラ上司なので、ケイトさんのパーティーメンバーに対しての侮辱は想定内だった。


そして、ケイトさんの性格からして無視を決め込んでちゃちゃっと話を終わらせて帰ろうとするのだろう。


そう思ってた。


しかし、違った。


怒気を孕んだ声で仲間に指示を出している…怒っている?なんのために?


…もちろん仲間が悪く言われてムカつかない奴はいない。


いたらそいつは仲間なんかじゃない。


しかし、圧倒的な権力の前ではそんな怒りは吐き出せない。


そんな矮小な人たちを私は見てきた。


だが、彼はどうだ。


仲間に指示を出してあのパワハラ上司ことザックさんを一泡吹かせたのだ。


固唾を飲まずにはいられない。


ざまぁ…と思った。

いつも叱るだけ叱ってめんどくさがり屋の自分を棚に上げてるザックさんはもともと苦手だったのだ。代わりに誰かが彼をとっちめたことで心が少し軽くなった。


それと同時に私はある種の感情を得た。


なんと形容すれば良いのかわからない…

けど、してやったりといたずら顔で笑った彼を想像すると胸がドキドキとする。

そんな未知の感情だった。


-------------------------


…扉の前で聞き耳を立ててる誰かさんはおいといて、目の前の景色は本当に凄惨だ。


頬に少し赤みがついて火照った体をぴくぴくとさせながらノビてるおじさん。


ここが美少女だったら許せた。


しかし、コワモテジジィはどうだろう。


…許せるわけないだろ!


なんでこんなものを見させられてるんだ俺は…


「ラシュカ…すまないがあの結界を少し開けてくれ」


「…なにをするの?」


「あんな光景は一度隠して置きたくならないか?」


「激しく同意じゃな」


「あんまり…見てて良いものじゃないもんね…」


「……見たくない」


「我慢してくれ…これが終わったら一度見えなくなるんだから」


そう言いながら片手に魔力を込めていき、

魔法式の構築に入る。


「わっ…スゴイね」


「魔力の練り方が繊細で強大で…さすがワシらのリーダーじゃな」


「…魔法もできるんだ…」


それぞれが口々に反応するがラシュカには魔術しか見せてなかったから全員が俺の魔法を初めて見るのか。


「【闇霧】…っと」


詠唱をしない代わりに魔法式を使うことで威力自体は弱くなるが持続時間が魔法式の精密さによるが段違いに変わる。


1番魔法として良いのは詠唱と魔法式を同時に展開することなのだが、威力も持続も優れているため両方使う奴も一定数いるらしいが集中力と魔力をかなり持ってくので基本はどちらか片方を使い分けるのが常識だ。


魔法式は攻撃系の魔法の時はあまり使われないが、【闇霧】のような空間に作用するいわゆる『空間変化フィールドマジック系』では非常に重宝される。


【闇霧】はその名の通りで暗い霧を発生させる魔法だ。分類としては闇属性と水属性の混合魔法で本来は魔物から魔法士が詠唱中に攻撃されるのを防ぐために身を眩ませる目的の技だが、まさかギルドマスターの痴態を見たくないからって使うハメになるとは…


「これで大丈夫だ。ついでにギルマスに回復魔法を使ってやってくれ」


「…うん」


手をナイフに刺されていたからな…っと

回復魔法をギルマスにかけてもらった。



…それからギルマスが目覚めたのは半日後だったらしい。


流石にずっと待っているほど俺らは馬鹿でもなかったため、扉に張り付いていたマリーさんに一言言って一度拠点に戻ることにした。


「なんか拍子抜けだよねー」


「あちらが勝手にワシらを低く見過ぎでいたのもデカかったがの」


「…あれって結構(いろんな意味で)効くよな?」


あれとはもちろん【浄化】のことで、

心配しているのはギルマスが新しい扉に目覚めてしまったのか…そこが唯一の懸念点だった。


「あれのヤバさは軽く味わっただろ?」


「…あれはやばかったのぅ」


「…それの最大出力だ。普通に考えて並のことでは満足できない体になってしまったのだろう」


「あれもこれから大変だねぇ」


ギルマスをあれ呼ばわりすんなよ…



翌日マリーさんに言われた通りに再びギルドに訪れた。


するとすぐにマリーさんから声が掛かって

執務室に連れられたのだった。


「今回は私も同伴で行こうと思います」


「ぬ?怖いのではなかったのか?」


「…昨日からのザックさんの様子がおかしかったので」


「まぁ…あれ食らったらそうなるわな…」


「あれとはなんですか?」


「気にしなくて良いぞ」


適当にマリーさんを誤魔化して執務室に入ることを催促する。


それを受け取ったマリーさんが扉を叩き、


「失礼します、ザックさん。ケイトさんたちを連れてきました」


と呼ぶと


ガタッガタガタ!


と中で椅子が激しく動いた音がしてきた。


…凄い動揺の仕方だな…


『お、おう!早く入れてくれ!』


昨日よりも少し丸い反応を返してくれた。

というかなんか声が高い?


扉を開けて眼前をみると、

…誰?といっても良いほどギルマスの態度…というか姿がガラッと変わっていた。


「いや誰だよ」


おっと、口に出てしまったな。


それもそのはず、


昨日の厳ついオーラなんてものはなくて、

肩幅が狭くなり、背が縮み、

髪が伸びて身体中にあったのであろう

無数の傷も綺麗さっぱり無くなっている。


まるで女の子だ。


「…【浄化】の副作用…」


「え?そんなんあるの?あの魔法…」


「一時的なのか半永久的になるかは分からないけど、…多分平気」


「ようこそ、ケイトさん方。私は皆様のことを歓迎いたしますわ」


口調も別人じゃねぇか!


…そういえば聞いたことがある気がする。


被験者に一度に大量の魔力を込めた魔法をぶちかますとリバウンドが起きて人体に影響が出るとか出ないとか…みたいな話を。


でもそれって王宮魔道士とか言われてる奴らが一個師団全員を使って起きてしまった悲劇…って語られてたような…


それを一人でやってのけちゃうラシュカ…やっぱりとてつもない魔力量だな…


「皆さまに来ていただいたのには少しご用件がありまして、少々よろしいでしょうか?」


口調が別人すぎるッッッ!


「え、えと、なんでしょうか…?」


「まずはケイトさま方のギルドでのランクをAにまで上げるのですが、それの確認です」


「天使竜倒したからか」


「はい。それもございますが、先日のローウェイ殿との勝負に勝ちましたし、私も手も足も出ずにやられてしまったので…この処置になりました」


「僕たちもなんだ〜!やった」


「それと特例であなた方がパーティーで活動する際に限り、Sランク級になるという処置も下されました」


「パーティーに人が増えてもか?」


「あなた方が実力を認める方とのみパーティーを組む…という条件がつきますが」


「それはいいのぉ」


「かしこまりました」


「あと何か報告することがあるのか?」


「やはり気付いてましたか…」


ごめんなさい、何も気付いていないです。


「あなた方…いえ、ケイトさんを探す依頼が来ています」


「へ?」


「依頼主の方は、世界一の魔学的芸術家のレイン様です」


…これは新しい仲間の予感?


----------------------------


びっくりするほどスランプです。

あとこれでⅢ章は終わりです。


なかなかに綺麗に終わらないですね…


ワクチンの2回目わ打ってタヒにながら書いたブツなので粗い粗い…


ブックマークが減りますねぇ…

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