第54話
「ハァァァァア!」
ローウェイが放つ斬撃は流石はSランクといったところだ。一つ一つの技のキレがとても良く、確実に倒そうとする意思が見える。
互いに致命可避という類の結界が張られており、死ぬことはない。
だから此方も全力で相対する。
宵月はとても俺に相性が良く、
一目俺を見ただけで得意武器を見抜き、最高の品質で作り出すスティールはやはり只者ではない。
スキルの「我流実践剣術」の相乗効果によりいつもよりも高いパフォーマンスを実現している。
刀と剣がぶつかり、火花が散る。
激しくぶつかり合う両者はまだ疲れた様子を微塵に感じさせない。
「なかなかやるな!」
剣筋は重心がブレブレの変則的だがそれでも相手を斬り殺さんばかりの勢いで空気を切りつける。
「…っク!君本当にDランクなのかい?強すぎるよっ!と!」
受付嬢にでも聞いたのだろう。
「ふんっ!良くこんな戦い受けてくれたな…っと!」
「『神話殺し』であると証明されたやつと戦いたくない奴はSランクにいないと思うぜ!」
戦いの中で剣を交えながら言葉を交わす。
それがとても気持ちよく、とても楽しい。
(て、いうかコイツ強すぎる?!まだ全力じゃないとはいえ天使竜に一応勝って相当レベルアップしてるはずなのに…!全然決めの一手が定まらない!)
対人経験が少ないとはいえ、ゴブリンのような小型のモンスターと戦うこともあったはず…やはり相手の実力がとても高いことが起因しているのだろう。
…このままだと埒があかない。
「やるしか…ないか!」
これまでは自身の実力のみでの真っ向勝負だったが、この戦いを終わらせるために「力」を使う。
(【彗星光】!)
心の中で魔術式を描きながら唱える。
この魔術は星属性の中でも基本形で身体能力を魔素によって向上させることが出来る。
魔力が体に透明なイナズマようにして纏われた。
俺の体中に広がる魔力の濃さにローウェイも危機感を感じたのか本気を出す。
「僕もガチでやんなきゃやられちゃうね…!」
そう言って両刃の長剣に魔力を注ぐ。
魔力が入った長剣は美しく輝いたと思ったら、轟々と雷を纏う。
…あれは魔剣だ。
魔剣は魔族側の特殊な技術によって、魔力を剣に込めることで作用する造りがあるのだ。
魔族と人間は大半は協力関係にある。
きっと彼の仲間には魔族がいるのだろう。
「良い鍛治師がいるんだなっ!」
「褒めてもらえて結構だよ!アイツも喜ぶだろう!」
互いに話し合う程の余裕を持っており、
真正の力を出し合ったとしてもその余裕は崩れない。
「スゲェ…」
「『神話殺し』は本当だったのかよ…」
「てか、あのSランクの『聖光剣士』と同等に戦えてる時点で只者じゃねぇだろ!」
と野次はこの戦いを見ることができて、
一生の運を使い果たしてしまっているような感覚を皆が覚える。
突如始まったこの闘いを見届けることのできる幸運はもうやってくることはないのだろう。
"普通の人間"は。
「アワワ…!何かスゴイことになってるよ?!」
「本当じゃな。なにも、目立つためにそこまでする必要も…いや、目立てば目立つほど利があるのか」
「やっぱり…ケイト、すごい…」
3人も彼が出て行ってから尾行していって、
ことの顛末を見ていたのだ。
剣撃と刀撃がぶつかり合い衝撃波が生まれる。
相手が強くなればなるほど…自身が強者になればなるほど…
戦いが好きになる!
「そろそろ終わらせるぜ!」
「あぁ、こっちも同意見だ」
2人の斬撃の応酬が止み、束の間の静寂が訪れる。
「「行くぞ!」」
「【我流実践剣術】…奥義…【宵闇一閃】!」
「纏え、魔剣よ。集え、イカズチよ。精霊に祝福されし力よ…今、敵を倒さんとする!【ライジングスラスター】!」
俺はスキルを発動して思っいきりの一撃を構える。
相手も詠唱を終えて力を纏った魔剣を掲げる。
俺が刀を鞘にしまった瞬間、
ローウェイが攻撃に移る。
この戦いの最後となる一手を2人は打ち合う。
「敵の前で鞘にしまうなど自ら負けを認めてるものだぜ!」
勝ちを確信したローウェイの魔剣が俺の頭上に斬りかかる直前…
俺は刀を抜いた。
そう。この技は「抜刀術」なのだ。
抜刀術の利点はその圧倒的なスピード。
後の先を得意とするこのスタイルは転移前の地球でもかじっていた剣術で重宝していた。
この世界には日本刀のような形状の刀は少ない。よってこの抜刀術も使いこなすものがほぼいないのだろう。
その知識の浅さを利用した初見殺しの一撃。
振りかぶったローウェイの脇に当たって結界が破裂した瞬間、
勝負は終わりを告げた。
「はははは…まさか負けちゃうとはね…」
「まぁ、よく戦ったほうなんじゃないか?」
「まさかさっきの戦いって君…」
「まぁ、本気じゃないな」
「いよいよ完敗かぁ…」
ガックシと肩を落とす。
「挫折とかあんま味わったことがなかったけど、負けるってやっぱり悔しいんだね」
「……まぁ、負けを認めることも強さってな」
「ははっ、勝者に言われたって説得力は薄いって」
座り込んでいたローウェイに手を差し出し起き上がらせる。
「君とはやっぱり…」
「お前とはやっぱり…」
「「ライバルになれそうだ」」
思わずして声が重なり2人で微笑みあったのだった。
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