第25話

俺はどこにいるんだ…?


辺りを見回すと全てが白でできた何もない空間が一面に広がっている。体は宙に浮いているようで足元の感覚もない。


「朱音…どう言う状況か分かるか?」



…何も聞こえない。

何でか朱音と話すことができないらしい。


この空間も、朱音がいないのも、何もかもが謎に包まれている…


『聞こえますかぁ〜?』


脳に誰かの声が木霊する。朱音と同じように脳に直接語りかける系だが、声は朱音とは別物だ。なんか軽い印象を持つ少し高い声だ。


「あんたか?ここに俺を転移したのは?」


『そのとーり!私がいかにもこの世界の神の中の神!最高神カタルセニカだよぉ!』


…ん?神って言ったこの人?

カタルセニカといえばこの世界と同じ名前だし…そういえばここってファンタジーなんだよな。転移・転生ものには神様が付き物っていうし深く考えなくてもいいのか。


「ここはどこなんだよ?カタルセニカさま?」


少し挑発するように呼びかけてみる。


『ちょっとぉ、揶揄わないことぉ〜そういうとこ大人気ないよねぇ…カタルセニカでいいわよぉ〜』


何とも話しづらそうな口調で喋るものだ。


『えっとぉ…ここは現界と天界の真ん中らへんの世界ってところかなぁ〜』


…朱音から聞いたことがある。この世界は地獄から天界の間の境目はグラデーションのように重なっていて、そのグラデーションのひとつに地獄と天界のちょうど中間に現界が存在するらしい…詳しいことはわからないが。


「天界に行かせるってことは俺は死んだってことか?」


流石に3回目の死亡はシャレにならない。


『違うわよぉ〜魂だけを取り敢えずここに持ってきているだけで体はまだ生きてるわよぉ〜用が終われば魂はちゃんと戻れるからねぇ〜』


取り敢えずは生きているらしい。


「じゃあ用はなんだ?」


『そんなに急がないのぉ〜折角天界に一度行かせてあげるんだからぁ。』


「天界に行ける?本当か?」


『食いつきがいいわねぇ〜そうよぉ本当は人間は入れないところだけど特別にねぇ〜』


何が裏がありそうで少し不安だ…脳に直接語りかけてくるから表情も読めない。嘘か判断も出来ないのだ。でも、行ってみさはある。

ただの知的好奇心だが、なんとも感情が掻き立てられる。


『ちょっと!カタルセニカ様!勝手に神通力を使って交信しないでください!』


もう一人真面目そうな印象を持たせる女性の声が聞こえてきた。


『あらぁ〜セシアじゃないのぉ〜いいじゃないのぉちょっとぐらいぃ〜』


何とも対照的な人たちだな…


『すみません!ケイトさん!…いや晃さん?元の魂は晃さんなのであなたは晃さんですね!えぇっと…勝手に呼び出してすみません!カタルセニカ様は気まぐれなお方で、とてもネコ…いや自由な方で…今すぐ戻しましょうか?いや、すぐに帰してしまってはこちらの印象も…どうしましょう…』


謝られたと思ったらそのまま自分の世界に入り込んじゃってるよこの人(?)


『取り敢えずこっちにおいでぇ〜晃さん〜』


自分の体…というか魂が光だす。

そのまま目が開けないほど光は強くなり、

目を瞑っていると数十秒後突然光が収まる。


「んぅ…なんだ?」


違和感に目を開く前に気づく。

先ほどまで感じなかった地面を感じる。


場所がまた変わったことを知覚し、目を開く。そこは大きな神殿の前で、とても幻想的な気配がする場所だった。

神殿は目の前に立っているが、神殿は地平線の先まで広がっていて全貌がどれほどの規模なのかは想像が出来ない。


「晃さん。ようこそ天界へ。」

背後には誰もいなかったはずなのに唐突に

声をかけられる。大人の魅力あふれる落ち着いた声だった。

周りは神殿以外なく、綺麗な平地で草原が広がっているだけ。

隠れられるところはなかったはず。

それでも俺の背後に立てているのは

この世界が「天界」で、世界の住人が天人や神様だからなのだろうか。


後ろを振り向くとそこには、誰もいなかった。


…訂正。視線を下に向けると美少女がいた。

その風貌は金髪のロングで服装は水色を基調としたゴスロリ服で、不思議の国のアリスを思わせる。身長は低く、容姿は子供っぽいのに声は大人のような声でどうも不思議な感覚を覚える。


「はじめまして、先ほど交信でもすこし喋らせてもらいましたセシアと申します。以後お見知り置きを。」


纏うオーラが「the真面目」のような雰囲気を醸し出しているので、人格は容姿とはかけ離れているのだと察する。


「本当なら人間はごく稀にくることはありますが、あなたは「大罪」持ちで絶対に入ることはない禁制の土地のはずなのですから。

今回がとてもイレギュラーであるのですよ?」


俺が大罪を持っているのもバレているのか…

というかこういうシステムは神が作っているのかも。それなら知っていることも納得がいく。


「ここからどこへ行けばよろしいのかな?」


どんな口調で話せばいいか面と向かって人と話すのは少し苦手な俺からしたらわからない。


でもそんなことを気にしないセシアさんは

懐が大きい。


「では、ついてきてください。天界の最高神カタルセニカ様のところへお連れいたします。」


ほぉ…あの気の抜けた神さま(笑)に会えるのか。楽しみだな。

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