第19話

これから少し面白いものが見れるかもという楽しみが俺の心を黒く見せる。

(けど、死なせる気はないしな…)

あくまでもこの共同依頼は俺の人脈を広げるのと、主人公くんことアレク君が成長した時に彼をするための投資のようなものだ。


これだけ聞くにクズ野郎に見えるかもだが、

これも仲間のいない俺が世間で生きていくためにやる仕方ないことなのだ。


…ぶっちゃけラシュカという子の魔力量がおかしいように見えたからそれを確認するためっていうだけなんだけどね。

理由なんてものは大体は行うことの言い訳、

行ったあとの正当性を得るための後付けだと聞いたことがある。聖人たちはそんなことをしないだろうが…例外もあるということだ。


話が逸れたな。


スキルの「隠密」を使っているからか集落の近くに来てもまるでバレる気配がしない。

見張り塔のようなものもあるが、スキルの前ではあまり意味を成さない。


それでも、もしバレてしまった時を考え、見つからないようには動く。


アレクたちには俺が相手に何かしら仕掛けたら攻撃するよう指示してある。

そこで心配になってくるのは、

ラシュカとアレクは俺に不思議と信頼を置いているっぽいから言うことを聞いてくれるだろう。だが、ロゼアは俺のことを訝しんで見ていたため、言うことを聞かないかもしれない。まぁ、アレクが止めてくれると思うのだが。


…集落にはでかい外壁があるわけでもなく、ちょっとした柵があるだけだ。これならすぐに侵入できる。


が、まだ侵入はしない。


この世界に四季という概念はないが、

たまに暑い、寒いやらと気候が日によってばらつく事がある。そう言うことに備えてこの世界の住人は暖房の役目を持つ魔道具を持っている。それに使われるエネルギーは発火する液体は使い方や性能がガソリンと瓜二つのものなのだ。魔道具の中にガソリンを入れて火属性の魔石と反応させることで燃焼し、温度が上がるというカラクリがある。


そのガソリンを念のために持ってきていたのだ。


皮袋に入れたガソリンを木で出来ている柵にかけていく。しかし、それは全てにかけていくわけでもない。全てにかけるほどガソリンがないって言うのもあるが、全てにかけるメリットよりも一部だけ火災にしてしまうことのメリットの方が大きい。


(下準備は終わった…あとは掻き回すだけだな。)


この一手間を終えて侵入を果たす。

そこまで柵は高くないから思っていたよりも目立たずに侵入が出来た。


なるべく建物の死角に回り込む。

俺が静かに近づいた先は軽めの武装をした

一匹だけのリザードマン。

軽く物音を立ててみる。


相手はそれに気付きながらも気配を感じないことからただの自然現象なのだと思い込む。

しかし見に行かないことにも行かないため

適当にチラ見していく。


その瞬間を逃さず、建物の死角に入ってきたリザードマンをこちらに近づけて簡単に首筋に短刀を突き刺す。


この短刀は初めて外に出る時に気になったあの不思議な短刀だ。鑑定してみると、銘こそはわからなかったが、能力として生命エネルギー及び魔力を吸収、蓄積、開放する事ができるらしい。他にも機能があるだろうと俺の直感が言っているが、これだけでも十分に強いため解析は後回しにしておく。


短刀の能力に沿って首筋から魔物が出す

血液と魔力が吸われていく。血液は液中に含まれる生命エネルギーを吸収すると一瞬で鮮やかな赤色で出てきた血液が黒く固まりかけてしまっている。


死体となったリザードマンは干からびてしまって死後何日も経っているような風貌に変わり果ててしまう。


新鮮な肉が欲しい時とかはあまり使えない能力なため必ずしも万能でこれ一本でなんでもできると言うわけでもない。


そのあとこのムーブを2回ほど行う。

芋リプレイは生きる術のひとつだ。臆病な方がちょうどいい。


でもこれで相手の全体の練度の指標が見えてきた。あいつらはほとんど、対人、それに隠密を使う敵との対処法が見つかっていない。


有利に進めるなら隠密でチマチマ殺していく

方が安全性が高い。…しかし、今回俺は1人じゃない。あくまで掻き回す事が重要なのだ。


(あいつらに50体いるって言ってない気がする…そこは俺の手腕次第ってか。)


手に手頃な石と短刀を握る。


そこで俺は死角からわざと身体をだし、隠密を解く。リザードマンたちは急に現れた部外者の気配を感じ取って困惑していたり、我に戻った奴らは急いで武器を手に取ろうとしていたり、突如のことで思考が上手く回っていない。


だが、侵入者をみすみす逃す輩でもなく、

姿を現した俺を20…25…30体が囲もうとしている。俺はガソリンをかけた柵まで走り、誘き寄せる。


手頃な石と短刀の刃先を近づけて短刀の力を「開放」させる。すると、石は膨張し、今にも壊れてしまいそうな危なっかしさがある。


それを柵に向かって投げて俺は不敵に笑う。


「さぁ、開戦だ!」


柵が突如大きな炎に包まれて爆発が起きる。

その衝撃は強く、殆どのリザードマンを吹き飛ばすことに成功した。


「あいつらまだ倒しきってないんだから早く動いてほしいよなぁ…」


再び隠密で身を隠しながらあいつらの行動を待っているのだった。

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