第9話
ガタッと大きな音を立てて飛び起きる。
「な、なんだ?いまのは…?」
今は深夜だというのに意識は完全に覚醒している。嫌な感覚だ。…俺は夢を見ていたのだろう。
夢というものは2種類ある。
記憶の中に残るものか、完全に思い出せず悶々とするものかだ。俺が見たのは後者の方だ。微かに思い出せない。だが、大切なことを言っていた気がした。その掴めそうなもどかしさと気持ち悪さの正体がわからず、深夜なのにも関わらず唸り声が俺の部屋を反響する。
その声は存外大きかったらしく、隣の部屋で寝ていた彼女が俺の部屋に飛び込んで来た。
「だっ大丈夫!?」
「…っ!大丈夫だよ。少し、嫌な夢を見ただけ。」
「…晃くん苦しそう。話聞くよ?」
自分の胸の中にはまだ、あっちのことが残っているのだろうか。心残りなのか、それとも別のナニカなのか?俺の中だけでは答えが出ない。これが俺のあっちに対する最後の執着なのだろう。
それは俺の心に霞んで消えない。
…彼女に俺は引きつけられるようにトラックから助けようとした。それが「運命」とやらだったらそれを決めたカミサマとやらを笑い飛ばしながら感謝でもしよう。それほどまでに「運命」は死という代価を払ってまで手に入れる価値があることだ。
そんな俺の中の特別なそんな存在になってくれた彼女…光にはとても感謝している。
嬉しさを感じる反面、不安もある。
光がいなくなったら…そう考えるのが怖い。
…でも、この人生は失うことを前提とした出会いでしかできていないのだ。少し失う時が違うだけ。
…なら俺にできることは…
彼女を失わない。奪われようと絶対に取り返す。そう覚悟した。
失うことが怖くてちぐはぐだったこの異世界での関係はもう少し深く、明るく進もう。
…目の前の彼女に俺は自分の葛藤や不安、失うことの怖さを吐露した。普段はそんなことなどない。見せたくないのだ。こんなかっこ悪いところ。でも、彼女ならこのカッコ悪いところも認めてくれる。そう感じることができたのだ。
異世界に来たとき、不安はあった。いきなり未知の家に住むのだ。罠じゃないのか、どこか危ないところはないか、そう思うと怖くなる。外に出てゴブリンなどの人外生物を見た時もそうだ。未知への恐怖。それしか浮かんでこない。
でもそれは彼女だって一緒なのだ。明るく努めているが、夜は泣きそうになっているのを目撃してしまったこともあった。
気づいてしまったらもう止まらない。
それを聞いていた時の彼女の頬には…涙があった。
「晃くんっ私もね…怖かったんだよ。晃くんがいなくなっちゃうことが。この世界は私たちが一緒にいるから生きていけてるの。私がいなくなっちゃったら晃くんも怖いでしょ?この世界には絶対はないの。だけど、せめて言いたいの。」
「…俺からもだ。」
「「愛してるよ」」
2人の言葉が互いの体の内側をほっと温める。
その温もりは温かいだけではなく、顔を真っ赤にさせるほどの熱さを有していた。
「…ありがとう。相談に乗ってくれて。」
恥ずかしさが上限突破しそうな勢いなので、少し話をずらす。
「う、うん!よかった。」
でもこれだけは聞きたい。
「あ、あのさ…」
でもこれだけは言いたい。
「結婚を前提として、付き合ってください。」
ほのかに月夜の光が部屋に差し込み、その時お互いが見合った2人の顔は、
幸せそうだった。
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少し少なくてすみません。
次はちゃんと字数を多く書けるようにします。
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