第8話

 俺と光はこれからについて考えた。生き急いでいた俺らにとって休息をとるということの方がむず痒くて性に合わないのではなんて思えてくる。


 取り敢えずやることは決めた。

 ・スキルレベルの鍛錬の量を減らす。

 ・研究室には入らない。

 ・ゆっくりとほのぼのと生きる。

 ・自由を手に入れる。


 少し大雑把なのは、明確な理由はない。でも、具体的にしすぎるとそのルールを遵法とする意識になってしまいそうでいつも何かに追われている感覚は一度鎖してしまった方がいいだろう。


 スキルレベルの鍛錬は続けておかなければ、もしもの時体が鈍っていたらスキルに振り回されてしまうかもしれない。せめて少しだけでも体を動かしとく方がいいという両者の合致で決まった。


 転移の謎などは俺のスキルの一つに「建築家」というのがあるからスキルレベルの向上の際に何度か作った建物の中で1番使い勝手の良さそうなものを採用したところを研究室なんて言って色々と実験をしてたりしていたのだ。実際、有益な情報もあったが、大抵は転移の謎に引っかかるようなものは見つからなかった。ちなみに建築のスキルでの失敗作は残しておくと邪魔になってしまうから大抵は取り壊してしまったのだけれど、数少ないが残しているものもある。…少し話がずれてしまったな。


 そんなことを決めていると先程まで昼間の眩しいくらいに明るかった青空は闇にそまっており、部屋も十分に暗くなっていた。そこに気付かないほど話し合いに熱中していたのであろう。


 その日は野菜とオーク肉(見た目は豚肉、味も豚肉)で作られたホワイトシチューをパンと食べていた。…食料問題はあまりない。なぜかと言うと、この転移の館の周りには柵があるのだが、その内側に畑があった。そこにはさまざまな野菜が植えられていてとても整備されていた。朱音いわく、大賢者様の厚意なのだとか。さらに聞くと、これはただの野菜ではなく「圧縮野菜」という品種で、一度切り込みを入れるとそこから野菜が膨張し破裂。すると、そこには野菜が1ダースほど置かれている。という希少品種で、栽培が容易だったので量産している。品質もかなり良く、どこかの市場にでも出回れば軽くパニックだろう。…オーク肉は言うまでもないだろう。


 前までは肉がなくって少しひもじい生活をしていたと思うと凄い進歩だな。光はオークのことを見たことあるからあの醜悪な見た目からこんな普通の肉が生まれることにかなり驚いていたな。


 食事を終えて自室に戻る。光とは部屋が隣である。何かあってもすぐに対処できるようにという光からの願いだった。この転移してからの2年。光とは親しくなっていた。このわけもわからない世界を生きていくために協力をしなければならないからなのかもしれない。でも吊り橋効果とでもいうのだろうか。俺も彼女のことを守りたい。そう思えてくる。この関係はいつまでも続くのだろうか。続いたら嬉しいなと思ってしまえる。光もそう思ってくれるといいのだが。


 今後関係がどうなるかなんてわからない。

 だが、それもまた一興。世の中の全てを与えられると人は。肉体的なものとは違うが、「死」という大きな、大きな括りで見ると人間としての尊厳が消え、死んでいるのと同義だといつかに見た哲学の本に載っていた。


「運命は偶然に起こる。だが、それまでの過程は全て必然に起こるものなのだ。…か。」

 いつに聞いたのかすら忘れた言葉を繰り返す。

 大事な人だった気がする。けどもう思い出せない。

 …いやいやいや落ち着け。何を考えてるんだ俺は。只の痛いやつみたいじゃないか…

 このまま痛いやつだと自虐してるのは辛いから落ち着くためにベットに寝転がり、目を瞑る。昔からの俺の精神安定方法ルーティーンだ。しかし、それは心を落ち着かせるだけでは済まず、俺を深い眠りに誘っていった。


 〜


 気がつくと俺は真っ白で床も壁も天井もない

 空間に浮いていた。そこで俺は前世界で何度もその姿を目で追っていた彼女と向かい合っていた。


「晃くん。貴方は自…に縛ら…て…る。」


 彼女が何と言ったかは分からなかった。

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