第7話

 転移から2年後。

 俺らは完全に行き詰まってしまった。


 スキルのレベル上げや、称号獲得や異世界転移の謎、単純な戦闘訓練をこの2年間で行ってきた。が、レベルは伸び悩み、謎解きはまるで手掛かりもなく、戦闘訓練は対人経験が徒手空拳での光との稽古しかやったことがない。

 剣術家同士の対人なんて経験がない。


 ちなみに言うとこの世界に来て光も自分の身を守るために前の世界の文化である空手や柔道、合気道などの武術を学んだのだ。

 なぜ、この世界に前世界の武術を教える方法があるのかと言うと、


 答えは単純明快。


 高校に上がる前まで俺が総合格闘技や日本武術、中国武術を学んだことがあるからだ。俺は頭の要領はいいらしいのだが、前世界での体使いは全然で知識だけが頭に残っているという残念なものだったため、頭に無駄な要領ストレージを作らないため光が護身用のため、と言ったときに思いついたのだ。剣術は危ないから教えたくないのだ。


 そんなことがありつつも現状、俺らには壁がありそれを打破する方法もない。そこを模索していくことに意味があるのだろうか。

 今日は2人でそのことについて話していた。


「これから何していけばスキルレベルが上がるんだろうね?」


「そうだね。前まではちゃんとスキルが磨かれていく?みたいな感じがしてたからちゃんと成長してるんだなってわかってたんだけど…」


「その感覚がなくなっちゃって成長ができてないから自分を鍛錬から支えるモチベも下がるしでねぇ…」


「そうなんだよねぇ…あと、俺らがずっと不思議に思ってた称号とかなんで転移しちゃったのかとか謎に包まれたままで解明なんて夢のまた夢だったりで本当にどんどん足取りが重くなっていくよねぇ。」


「ここに誰も来ないって言いきれもしないからもし人が来た時もどうしよう…」


 2人は解決策が浮かばず顎に指を当てる。

 図らずして同じポーズをとっていたから思わず吹き出してしまった。それもまた同じタイミングで。


 閑話休題。


 思えば俺らは生き急いでしまったのかもしれない。どんだけ頑張ったってまだ命は続く。俺らが目指しているのは最強などではない。いや、最強は目標の通過点にしかすぎない。俺らの目標は「自由」なのだ。

 誰にも邪魔されないように生きる。

 そこに障害として立ち塞がるのだったら神様だってぶっ倒す。そんな覚悟すらしている。

 しかしいま、この2年間を振り返ってみると、

 どうも頑張りすぎているように思える。

 これもまた一つの生き方だ。

 だが、これは自由なのか?縛られてなんかいないだろうか?

 答えは人による。十人十色の答えが返ってくることだろう。

 その一つの意見として俺から言えば、これは一つの自由なのだと思う。いきなり裏切ったように思えるかもしれないが、これには理由がある。

 修行をしたい。強くなりたい。これは俺の意思だ。俺の縛られていない俺のもった心だ。

 それを自由と言わずなんと言う。

「俺はこれをやりたい!」そう自ら抱いたのだ。


 しかし、この意思は作為的な思惑を感じずにはいられない。もともと俺は格闘技やっていたとはいえ、戦うことは嫌いだ。不良に絡まれても絶対にこちらからは手を出したりなんかしない。好戦的な性格などではなかったのだ。それが今ではどうだ。外の世界に行って自分より強いモンスターと戦うことがとても楽しい、もっとやってやりたい。そう思えている。これは少し意識すればすぐに気づくことができたのだが、自分の内側を塗り替えられていく恐怖。それを感じてしまう。


 そんな恐怖から逃げるため、俺は提案をした。

「少しゆっくりしてみないか?」


「と、いいますと?」

 先程ほどの俺らの議論を一度壊したのだ理由は必要だろう。さっき考えていたことを光に話して改めて提案をする。


「…というわけで俺らにはまだ時間がある。それを無駄にしたって少しはバチは当たんないだろう?」


 すると少し彼女はぷくーと頬を膨らましプンスカと怒る。


「私たち2人でやることに"無駄"なんてないんだよ!もう!無駄なんかじゃない!楽しいんだよ!」


 どうやら"無駄"というところに怒ってしまったようだ。


「そうだな…ごめんな無駄じゃないよな。」


「わかればよろしい。」


 膨らませていた頬を急速に萎ませて俺の近くで背伸びをし頭を撫でてくる。

 俺と光では頭一個分くらい身長に差が出てるからついそんな姿勢になってしまう。


 可愛いなぁ。そんなことで癒されながら今度からの行動について話し合っていくのだった。

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