#20 まぁ無いことも無いよ?





お昼にミワが「久しぶりにアカリのチャーハンが食べたい」と言い、イクミも「私、アカリの料理食べたことない」と言うので、二人のリクエストに応え、僕がチャーハンを作った。


昔、テレビの料理番組で見て覚えたパラパラになるチャーハンで、それ以外は特に何もない普通のチャーハンだったけど、二人とも「美味しい」と言ってくれ、特にイクミは「パラパラにする方法、今度教えて!」と言うので、『今度一緒に作ろう』と約束した。


当分先の話となってしまうけど、離ればなれになるのにこうやって些細な約束が出来ることが、以前と違ってなんだかホっとさせられる。




食後は、イクミが「3人で写メ撮りたい」と言い出し、だったら久しぶりに中学に行って撮ろう、ということになって、3人で歩いて中学まで行った。


イクミはミワの腕に自分の腕を絡ませ、まるで恋人の様に二人仲良く歩いていた。


僕は二人の後ろを歩きながら、二人のその姿をスマホに収めた。



ミワはイクミの前でもすっかり素の自分を出していて、緊張もしてない様子だった。


二人は中学の思い出話や、イクミが転校した後の話をして盛り上がっていた。

特に二人の元カレである杉田のことで「あれは顔だけだったわ」「でしょ!すっごい自己中で嫉妬がうざい!」「そうそう、イクミがあっさり別れたの、自分でもしみじみ実感したっけ」とか、あけすけに話すもんだから

『ぼ、僕も裏では、うざいとか言われてるの・・・・?』とビビりながら聞くと


「そんなわけないじゃん!私はアカリ、ラブだよ!」 by天使

「どうかな~? 最近アカリ調子乗ってるからな~?」 by猛獣


ミワがフザケタことぬかすので、二人の間にチョップかまして割って入って、『ミワがいじめるよ~!アイツやっぱり性格極悪だよ~!』と泣く真似してイクミのおっぱいに顔をうずめた。


イクミは「ヨシヨシ♪」と僕を甘えさせてくれるのに、ミワは「おいコラ、そういうトコだぞ」と言って僕の脇腹をグーでゴリゴリしてきた。




中学に着くと、校門で二人や三人、代わる代わる撮影し、校内に入っても撮影した。


ひとしきり撮影して満足したら、校庭の端にある藤棚の屋根のあるベンチに座って、のんびりお喋りした。



「久しぶりにミワちゃんと遊べて、楽しかったぁ」


「私もイクミとお話出来てほんと良かった。今度からスマホで連絡とれるし、楽しみ」


「ミワちゃん、アカリのことよろしくね」


『な、何をよろしくされるのさ。どちらかと言うと僕がミワのことをよろしくする方では?』


「いいのいいの!アカリが浮気しないように見張っててね!ってことだから」


『いやいやいやいや、ないない。僕がイクミ以外と浮気なんてないから』


「目の前でイチャつかれると、ウザいんだけど?」


「そんなこと言ってぇ、ミワちゃん焼きモチ焼いてぇ~♪」


「は!?誰が誰に!?」


「そりゃ、ねぇ・・・」チラッ


「いやいやいや!ないから!」

『いやいやいや!ないから!』


「彼女の前で、そんなに息ぴったりなの見せつけるのは、彼氏としてどうなの?アカリ」


『わたくしめは、イクミお嬢様に身も心も捧げる所存です・・・このような下賤の女など、ミジンコ程も・・・・』


「なにそれ、ウケる! ていうかミワちゃん。ぶっちゃけ、中1の時のアカリの告白断ったこと、後悔したことあるんじゃない?」


おいおい、何急にぶっ込んでんだ、イクミ


「う~ん・・・まぁ無いことも無いよ?」


こらこら、ミワまで何言い出してんだよ


「だって。良かったね?アカリ」


おい、イクミ、目が笑ってねーぞ


『・・・・・いきなりそんなこと言われても、どんな顔していいのか判らん・・・・もう、遅くなる前に帰ろうぜ!』


「逃げた」

「うん、逃げたね」


『ほら帰るよ!ミワんちまで送ってくから行こうよ!』



そう言って、ミワの家に向かった。


途中、イクミがミワに話し始めた。


「ミワちゃん、高校のクラスのことアカリから聞いたよ。それで、今日ミワちゃんと遊んでみて思ったんだけど、ミワちゃん学校で大人しくしすぎなんじゃない? アカリや私と喋るみたいにガンガン本音出してみたら? そしたら周りのヤツら絶対ミワちゃんに生意気な態度とか取れないと思うよ?」


『そうだなー、僕もここ数日同じようなこと考えてたなぁ。ミワって周りから”美少女 森田ミワ”のイメージ押し付けられてて、ミワもそれに従わされてる感じがしてて、猫被って言いたいこと我慢して、結局逃げるしか出来なくて、それで一人だけ辛い思いして損してるように思える。 あいつらミワが大人しいと思って調子に乗ってるんだよ」


「うー 簡単に言うけど、私、イクミやアカリみたいにコミュ力高くないし、引かれたらどうしよって思っちゃってやっぱり怖い」


『まぁまぁ、いきなり変わらなくてもね。どうせ3か月もしたらクラス変わるし、それからでもいいし』


「うんうん。それに、少なくとも私は今日見せてくれた素のミワちゃんに引かなかったし、すっごく面白くて可愛かったよ?」


「うん、ありがと。考えてみる」


ミワのことを話しているといつの間にか、ミワの家の前まで来ていた。


イクミは「う~ん」と考え込むポーズをしたかと思うと「そうだ!」と言って、自分の前髪にいくつも止めていたヘアピンから1つを外し、ミワの前髪に自分と同じように付けてあげた。

ミワはその間されるがままだったが、イクミに「よし! これお守り代わりね。ご利益は保障済みだから」と言われると、素直に「ありがと」と答えた。

イクミはそんなミワをハグして、頭をヨシヨシしながら「また遊ぼうね」と短い言葉でお別れをしていた。




ミワを家に送り届け、僕とイクミは手を繋いでイクミの家に向かって歩き始めた。


イクミにヘアピンのご利益のことを尋ねると「そんなの決まってるじゃん。アカリと再会出来たこと。アカリともう一度恋人になれたこと、全部だよ」と教えてくれた。


『すげぇ、ご利益抜群だね』と答えると「でしょ?」と、満面の笑みを僕に向けてくれた。



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