#11 約束とお願いと感謝
高梨の家でお昼をご馳走になり、午後もそのまま高梨の部屋で二人きりで過ごした。
家には『久しぶりに中学の友達と会ったから、帰るのは遅くなる。昼ごはんは要らない』と連絡は入れておいた。
そういえば高梨は食事前に「メイク直してくる」と言って、再び洗面所に立てこもり、食事の時にお母さんからまたからかわれていた。
高梨の部屋では、恋人繋ぎで手を繋ぎ、二人並んで壁にもたれて思い出話に花を咲かせたり、高梨の学校や部活の話も聞いたりした。
高梨は、私立の女子高に進学していた。
高校でもバレーを続けており、本人曰く「男っ気なんて皆無だよ。たまに告白されても女子ばかり」と自嘲気味に教えてくれた。
女子からの告白・・・中々興味深い話題だったけど、空気を読んでスルーした。
今までのことだけじゃなく、これからの話も色々した。
次に帰省するのは、恐らくお盆休みになるんじゃないかと。
春休みは、多分部活漬けになるというので、僕の方から会いに行くと約束をした。
最初は「遠いから悪いよ」と遠慮していたが『絶対に行く。5分でも10分でも良いから会って欲しい』と言うと「わかった。その日は部活休んででも会う」と約束してくれた。
もう一つ、僕からお願いをした。
『これからは”イクミ”って呼んでもいい?』
「うん、別に良いけど。なんかずっと高梨って呼んで貰ってたから、違和感が凄い」
『別れてからさ、ずっと色んなこと考えて、色んなこと後悔しててさ、その中の1つに、僕は下の名前で呼んで貰ってたのに、なんで照れくさいっていう理由だけで苗字で呼び続けてたんだろう。僕もイクミって呼べば良かったって。でも後悔してももう再会することは無いって思ってたから、その事考える度に物凄く凹んでさ。それが、まさか本当に会えちゃったじゃん?しかもまた恋人になって貰えたんだから、もうこれからは後悔しないようにしたくてね。ウジウジしてて情けないんだけどさ・・・』
「ううん、情けないなんて思わないよ。ずっと私のこと考えてくれてたんだよね?私だって同じだよ。ずっとずっと後悔してた。大好きだったのに、なんで別れたんだよ!って・・・」
イクミがまた泣きそうになっているから、イクミの気持ちを軽くしたくて、必死に頭を回転させて喋った。
『僕達が別れることになったのは、イクミのせいなんかじゃないよ。イクミのお父さんだって好きで僕達を離ればなれにしたかった訳じゃないしね。仕方のない状況だったのは解っているよ。 それに、もしあの時あのまま遠距離恋愛をしていたら、もしかしたら今頃辛くなって上手くいってなかったかもしれない。別れてから今日までの時間があったから、今こうして二人で手を繋いでいられるんじゃない?それに、少なくとも僕は、あの頃よりも今のがイクミのことを好きになってる。もちろん中学生の頃もイクミのこと大好きだったけど、今はそれ以上だよ』
そこまで話してイクミの様子をチラリと見ると、また抱き着かれて結局泣かれた。
イクミの背中を優しくポンポンと叩きながら
『凄く時間が掛っちゃったけど、こういうの「雨降って地固まる」って言うんじゃない?きっと僕達はもう大丈夫だよ。ね?』と語りかけた。
しんみりした空気を換えようと、名前にちなんだ高校での話をした。
『そういえば、名前呼びの話なんだけどさ。今高校の友達からさ「アカリちゃん」って呼ばれてるんだよ。女の子みたいで可笑しいでしょ?男子にも女子にも2年や3年の先輩たちからもみんな「アカリちゃん」って呼ぶんだよ。体育祭のときなんて応援団長したんだけど、学ラン着て「応援団長のアカリちゃんです」って書かれたタスキ無理矢理かけられてさ、もうみんな僕のことちゃん付けなんだよね』
「え!アカリちゃん!?応援団長!?なにそれ!?」
『ね?変でしょ?子供の頃は女の子みたい名前でコンプレックスあってさ、中学までだったらアカリちゃんなんて呼ばれたら絶対ムカついていたのに、イクミが僕のことアカリって呼ぶ様になってからはさ、それが嬉しくていつの間にかコンプレックスじゃなくなってた。だから今高校でみんなにアカリちゃんって呼ばれるの、実は嬉しいんだよね。それが切欠で色んな人と仲良くなれたし』
「なんか凄い話だね。でも私がアカリのコンプレックスの解決に役に立ててたのなら、嬉しいな」
『うん、イクミのお蔭だよ。コンプレックスだけじゃなくて、最終的には高校が楽しくなったのもイクミがアカリって呼んでくれたお陰だよ。ありがとうね』
「大したことしたつもりないのに、そんなに感謝されると恥ずかしいな」
そう言って、イクミはいつの間にか泣き止んでいた。
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