#10 消えなかった恋心が叶う時




約1年半ぶりに見た高梨は、ショートカットだった髪は伸びていて、中学時代よりもずっと大人びて見えた。


心臓が止まったかと思えるほど驚き、言葉を発しようにも喉から何も出てこない。

息を上手く吸えなくて、必死に吐き出した。


あんなに会いたかったのに。

再会出来たら話したいことが一杯あったのに。

言葉が上手く出てこない。


ただ涙だけがボロボロ零れてくるのが判る。


服でゴシゴシ涙を拭って、もう一度高梨を見る。

高梨も泣いていた。


泣いてる高梨を見て、無理矢理呼吸を整えた。


慎重に言葉を選びながら、話しかけた。


『高梨、久しぶり。元気そうだね』


高梨は泣きながら、右手の甲を口に押し当て何度も頷いた。


『まさか会えるなんて思ってなくて、凄くビックリしたよ。久しぶりにジョギングしててコッチの方まで来て、休憩してたんだ』


「うん・・・脚だいぶ良くなったんだね」

高梨はまだ泣いていたけど、それでも必死に声を絞り出すように返事をしてくれた。


『本格的なスポーツは相変わらずダメだけど、ジョギング程度なら大丈夫そうだったから、これから様子みて再開しようかって考えてたんだ・・・』


なにどうでもいい話してんだ、俺は!

もっと話したかったことがあるだろ!

聞きたいことがあるだろ!



『あ、あのさ・・・』

「アカリ!今日時間ある?」

僕が再び話しかけようとすると、高梨はそれに被せる様に勢いよく今日の都合を聞いてきた。


『う、うん。暇してるから大丈夫』

「じゃぁさ、久しぶりにデートしよう!私、まださっき起きたばかりで、朝ごはんもまだだし、泣きすぎて顔ボロボロだし、だから後で待ち合わせして。ね?」

『うん、わかった。僕も一度帰って着替えてから迎えに来るよ』

「うん、お願い。じゃぁ今から1時間後でいい?」

『了解。慌てなくていいからな。ゆっくり準備しててね』

そう言って、名残惜しかったが時間が惜しくて、僕はその場を離れて家に向かった。



「・・・相変わらず人に気使ってばっかり。ホント・・・」






走って帰りたかったが、脚のことを考えると無理は出来ず、なんとか早足で帰った。


家に帰るとすぐにシャワーを浴びて、サイフとスマホを持って今度は自転車で高梨の家に向かった。



高梨の家に着いて自転車を止めてから、息を整えようと深呼吸した。


そこで初めて気が付いた。

引っ越しの日に見送った高梨のお父さんの車がガレージに停まっていた。


高梨はこっちに引っ越してきたのかな?

あ、でも確かこの家に高梨のおじいちゃんも住んでいたんだっけ。

正月だけの帰省なんだろうか。


そんなことを考えたが、どうせ直ぐに聞けるだろうと、玄関の方へ回った。



もう一度深呼吸をしてからインターホンを押した。


高梨のお母さんが応答に出てくれた。


『朝からすみません。三上です。イクミさんお願いします』


「三上くん、久しぶりね!イクミから聞いてるよ。今開けるからね」

そう言って、玄関が開いてお母さんが出迎えてくれた。


『ご無沙汰しています。明けましておめでとうございます。新年早々押しかけてすみません』

そう挨拶すると

「明けましておめでとうございます。三上くん元気そうだね。高校生になって凄く男らしくなったんじゃない?あ、ごめんなさい、こんなところで。中に入って入って!」

そう言って、中へ迎え入れてくれた。



久しぶりの高梨の家の中。

高梨と初めてセックスをして、別れた時以来だった。

あの頃と同じ匂いがして、凄く懐かしくなった。


「え!もう来ちゃったの!?まだメイク終わってないよ!?」

と洗面所から高梨の悲鳴が聞こえた。


お母さんが高梨に「三上くんにリビングで待っててもらうからね。早くアナタもいらっしゃいよ」と声を掛けると、高梨は洗面所から顔だけ出して玄関にいる僕に向かって「直ぐ終わるからもう少し待ってて!」と言って、再び顔を引っ込めた。


僕はお母さんに案内されてリビングに通してもらった。

リビングには高梨のお父さんが居たので

『ご無沙汰しています。明けましておめでとうございます。新年早々押しかけてすみません』とお母さんのときと同じように挨拶をした。


お父さんも懐かしむように僕を見て

「明けましておめでとうございます。元気そうで何よりだ。よく来てくれたね。三上くんなら大歓迎だから気にしないでね」と言ってくれた。


高梨を待つ間に、気になっていたこと尋ねた。


『こちらに戻って来たのは、正月休みの帰省ですか?』

「うん、30日にこっちに帰って来ててね。3日までは居る予定だよ」

『やっぱりそうだったんですか。こちらに居ること全然知らなくて、さっきたまたまジョギングでコッチの方まで来てたら、偶然イクミさんと再会出来たんです。本当にびっくりしました』


僕が先ほどのことを簡単に説明すると、お茶を出してくれたお母さんが

「さっきね、突然イクミが外に飛び出したと思ったら、今度はボロボロ泣きながら戻って来てね。でもシャワー浴びて出かける準備するって言い出すから、おばさんピーンと来て「三上くんに会いに行くの?」って聞いたら「1時間したらアカリが迎えに来る!」って慌てて準備始めたのよ。あの子ったら相変わらず三上くんのことになると・・・ね?」

と意味ありげに教えてくれた。


10分くらいご両親と雑談をしていると、ようやく高梨がリビングに現れた。


「アカリ、待たせてごめん!とりあえず2階に行こ!」と言って、僕の手を引いて2階にある高梨の部屋に連れて行かれた。


高梨の部屋は、当時と違って、ベッドも机も無く、ガランとしていた。

布団が一組引きっぱなしになってて、高梨のだと思われるパジャマが脱ぎ散らかしたままだった。

高梨は、「げ!?」と美少女らしからぬ声を上げて、慌ててパジャマを丸めて布団を畳んで部屋の隅に押しやった。


部屋に入ったはいいが、二人きりになるとやっぱり緊張してしまい、何から話せばいいのか頭がグルグルした。


『高梨、相変わらず元気そうで本当に良かった。さっき外で偶然あった時はボロボロに泣かせちゃったから心配だったけど、さっきからの昔みたいな元気な様子見てると凄くホッとしたよ』


「もう、泣いてたことは忘れてよ!それよりアカリ、背が伸びた?中学の時よりもなんか男らしくなったよ?」


『そうかな・・・自分じゃよく判らないや。僕なんかよりも高梨の方のが凄く綺麗になっててビックリした。昔はショートカットだったから、ずっとそういうイメージだったけど、伸ばした髪も凄く似合ってて、今もドキドキしてるよ』


そこから少しづつ、お互いがお互いを確かめ合うように話をした。


デートに出かける予定だったが、特に行きたいところも思いつかなかったので、しばらくこのまま高梨の家でお喋りを続けることになった。

高梨のお母さんも、昼ごはんは一緒にと言ってくれた。


高梨は、僕の高校の話を色々聞いてきた。

偶然ミワと同じ高校になり、今は和解していることを話すと、驚きながらも安心してくれた。

最近のミワとの関係に関しては隠して話した。


一通り僕の高校生活を話すと、高梨は聞き辛そうに小さい声で「彼女は出来た?」と聞いてきた。


『彼女なんて出来ないよ・・・』と僕も消え入りそうな声で答えると


「ごめん・・・振った私が聞いていい話じゃなかったよね・・・」と凄く寂しそうに言った。


なんか、また涙が出そうになってきた。

朝、泣いたせいで、涙腺が緩くなってるのかな。


涙を必死に堪えて、でも一番聞きたかったことを聞いた。

『高梨は新しい彼氏、出来た?これだけ美人だと、凄いモテてるんでしょ?』


高梨は僕の質問には答えずに、黙って僕に抱き着いてきた。


なんだかこんなこと以前にもあったな・・・そうだ、高梨と距離置こうとしたら凄く怒らせて、告白された時だ。

あの時はガチガチに固まって、気の利いたこと言えなくて情けなかったな。


そんな事が頭に浮かんできた。


僕は抱き着いている高梨の背中を優しくなでて

『高梨にずっと会いたかった。ずっと寂しくて寂しくて辛かった。今こうやって高梨と抱き合っているなんて夢みたい』

と言うと、高梨は声にならない様な声で「うん・・・私もずっと寂しかった」と答えてくれた。


しばらくそのまま抱き合った。


高梨も僕と一緒で、別れてからもずっと忘れられないんだ、という確信が持てた。

でも高梨の確かな気持ちを聞きたくて、高梨に告白した。





『僕は今でも高梨のことが好きだよ。ずっと忘れられなくて、他の誰とも付き合おうと思わなかった。高梨、もう一度僕の彼女になって欲しい。遠距離で寂しい思いさせてしまうけど、高校卒業したら必ず迎えに行く。もう高梨のこと離したくないよ』





高梨は僕の告白を聞いて、嗚咽を漏らして泣き出した。

泣き止むまで僕は高梨の背中を撫でながら静かに待った。


しばらくすると、高梨は僕から体を離して顔上げて、正面から僕の目を見て答えてくれた。






「アカリの彼女にして下さい。私もアカリ以外は考えられない。大好きだよ、アカリ」





高梨の返事を聞いて、言葉で表せない程の喜びが湧きあがってきた。

あの引っ越しの日、去っていく車を立ち尽くして見送ることしか出来なかったあの日からの、寂しくて辛くて、沢山苦しんだ時間が報われた。


僕は、泣いている高梨の顔にそっと手を伸ばして、涙を拭った。


涙を拭われた高梨は、少し僕に顔を寄せて目を瞑ったので、僕も顔を寄せてキスをした。

軽いキスだったけど、高梨は照れながらも凄く幸せそうな笑顔になってくれた。

高梨の笑顔を見たら、物凄く愛おしくなって、何度もキスをした。


5~6回キスを繰り返すと「もう!し過ぎ!落ち着いてよ!」と高梨に怒られた。

僕が『ゴメン、嬉しくて我慢出来なかった』と謝ると「これで最後!」と言って今度は高梨からキスしてくれた。








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