#09 再会
母親が僕達を呼びに来てくれて、ようやくミワから解放された。
二人で洗面所に行き、顔を洗ってからキッチンへ行き、父と母に新年の挨拶をした。
ミワも猫を被って、キチンと挨拶をしていた。
父も母も、そんなミワを見て凄く機嫌が良さそうだった。
食卓で4人でお雑煮を食べると、父から僕とミワのそれぞれにお年玉を貰った。
もう完全にミワのことはウチでは彼女以上の扱いになっているんだと実感した。
調子にのったミワは、冬休みの間毎日泊まりに来ると言い出したが、調子に乗るなとお説教をしてそれは阻止した。
元旦なんだからミワの両親にも挨拶したいと理由をつけて、朝からミワの家に行くことに了承させた。
目的は、このままウチに居座ろうとするミワを一度家に追い返すことだった。
ミワの家に着くと、僕だけ玄関から上がらずにご両親に新年の挨拶をして、ミワを押し付けて帰ることにした。
帰り際、ミワの妹も少し顔を出したので、挨拶をしたが無視された。
ミワの妹のミクは、ミワの1つ年下で、僕にとっても中学の1つ後輩にあたる。
但し、中学時代にミワによる僕に対するネガティブキャンペーンの英才教育を受けているので、僕に対する態度はすこぶる冷たい。
ミワと和解して、毎日一緒に過ごすようになっても、ミクは僕に対する態度は冷たいままだった。
そんなミクが居るから、僕も気を使ってあまりミワの家には来ない様にしていた。
ミワを家に帰すことに成功した僕は、なんとなく高梨の住んでいた家の方へ向かった。
高梨と付き合っていた頃、足しげく通っていたので、今でも道を覚えている。
正月で比較的いつもより静かな朝の道を久しぶりにジョギングでもするかのように軽快に走った。
リズムよく息を吐く。
後遺症の残る脚は、なんとも無いようだ。
温まる体と顔に当たる冬の冷たい空気が心地よい。
僕が失った、走ること。
競技選手としては無理でも、こうやってジョギングすることならまだまだ出来るのかもしれない。
今朝考えていた苦しい気持ちも、もしかしたらこうやって形を変えることで晴らすことが出来るかもしれない。
そんな希望のような考えが浮かんでくる。
しばらく走ると、中学時代に見慣れた建物が見えてきた。
高梨が住んでいた頃と何も変わっていない姿で同じ場所に佇んでいた。
特に目的も無くここまで来てしまったので、とりあえずその建物から少し離れた場所にある自販機でスポーツドリンクを購入して、自販機の傍のガードレールにもたれて休憩することにした。
意外と、走れたな。
でもやっぱり息が直ぐ上がってしまう。
昔はこれくらいの距離なら、まだまだ平気だったのに、完全に体がなまってしまったな。
高梨の住んでいた家を目の前にして、高梨のことではなく、走ることばかり考えていた。
どれくらいその場に居たのか、気が付くと息は整い汗も止まっていた。
もう帰ろうか。
あまり無理しても良くないだろうから、帰りは歩くか。
そんなことを地面を見ながら考えていたら、直ぐ傍から名前を呼ぶ声が聞こえた。
「アカリ・・・」
顔を上げて声のした方へ向くと、そこに高梨が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます