#08 僕を苦しめる存在
元旦、朝、目が覚めると、隣の布団で寝ていたはずのミワが、僕に抱き着いて寝ていた。
起こそうと軽く背中を叩くが、全く反応が無い。
少し力を入れて引き剥がそうとすると、寝惚けているのか更にしがみついてくる。
諦めて、ミワが起きるのを待つことにした。
僕は、ミワに抱き着かれながら、高梨イクミのことを思い出していた。
僕にとって初恋の人、忘れられない人、そして今でも好きな人。
ミワには、もう諦めがついていると言ったが、本当はウソだ。
普段は忘れることが出来ているけど、今みたいにふとした瞬間に彼女のことを思い出し、無性に会いたくなる。
自分でも女々しいと思うけど、最近では「初めてセックスして高梨に対しての気持ちが絶頂だった時に、突然一方的に別れることになったんだから、忘れられずにいつまでも気持ちが残ってしまうのは、仕方がないんだ」と開き直りつつある。
そして有りもしない、高梨との再会を妄想して、更に一人空しくなる。
僕に抱き着いて寝息を立てているミワの寝顔を見る。
もし、ミワと恋人になれば、高梨のことを諦めることが出来るのだろうか。
もし、ミワとセックスすれば、高梨との幸せだった思い出を上書きすることが出来るのだろうか。
やっぱりダメだ。
誰も高梨の代わりになんてなれない。
ミワが、高梨が僕のことを「離れたくないのに別れたくないのに、それでも諦めなくちゃいけないのに」と言っていたと教えてくれた。
その話を聞いた時、どう言葉にすればいいのか判らないけど、なんだか溜飲が下がるような気持ちになった。
(ああ、別れが辛いのは僕だけじゃなかったんだ。僕だけが苦しい思いをしてる訳じゃないんだ。高梨も僕と同じように苦しんでいたんだ)って。
でも(高梨は僕と違って凄くモテるし、僕なんかのことは忘れて、もう今頃は新しい彼氏を作って幸せに暮らしてるんだろうな)と、すぐに卑屈な気持ちに沈み込む。
最後の日に高梨を見送ってから今日まで、こんな考えがぐるぐるぐるぐる渦巻いて、ずっと僕を苦しめる。
神様が僕の運命を弄んでいるのなら、いったいどこまで僕から大切な物を奪えば気が済むんだろう。
僕から走ることを奪い、愛しい恋人を奪い、そして今度は大切な友達との関係も壊そうとしている。
今、僕に残されているのは、ミワという友達だけだ。
昔の酷かった話を今は思い出話として笑い合えて、高梨のことを懐かしく語り合える唯一の友達なんだ。
でも、ミワは僕に対してそうは思ってくれていないことが、昨日はっきり解ってしまった。
高梨の代わりが居ないように、ミワの代わりも居ないというのに。
『どうすればいいんだろ・・・』と思わず独り言がこぼれた。
すると、ミワが「ん~」と呻き声を出して起きた。
『おはよう、ミワ。明けましておめでとう』
「う~ん、おはよう、アカリ。あ、明けましておめでとう」
そう言って、キスされた。
ミワはキスしても、それが当たり前の様な顔して「今何時?」と聞いてきた。
『今、7時半。そろそろ起きたいから、離れてくれ』
「やだ。もう少しこうしてたい」
そう言って、僕にしがみつく手に力を入れてきた。
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