第14話

 


 ハーレム系で、パッとせず冴えない主人公っているよね。

 外見も能力も普通なのに、何故か美少女たちから異様にモテる奴。そんな主人公を見ていて、読者はどのように思っているのだろうか。

 僕みたいに主人公に自己投影して、美少女から無償の愛を受けて満足感に浸るのだろうか。多分、そういう読者が多いのだとは思う。でなければ、パッとしない主人公のハーレム作品がこんなに多く生まれる筈がない。


 では視点を変えて、パッとしない主人公のハーレム物語にいる、その他のモブキャラは主人公のことをどう思っているのだろうか。「何であんな奴が……」とか「ムカつくわ……」やら「調子に乗りやがって……死ね」みたいに、影で罵詈雑言を吐き捨てたりしているのだろうか。

 あるだろうね。というか、ハーレム作品には主人公に嫉妬したり妬んだりするモブキャラは高確率で出現する。主人公撲滅委員会とか発足されている作品とかあったりもするし。


 ではさらに視点を変えて、もし自分がハーレム作品のモブキャラだった場合、美少女を周りに侍らせている主人公に嫉妬したり苛立ったりするだろうか。

 答えはイエスだ。だってそうだろう。イケメンだったり秀才だったりプロを狙えるようなスポーツキャラだったら、モテるのにも“納得がいく”。

 しかし、特に秀でている所がなく、自分となんら変わりなさそうな男が美少女たちとラブラブしていたら、僕は「なんでやねん」と呟きながら心の中で酷い言葉を並べるのだ。

 死にやがれどちくしょうとか、地獄に落ちろよとか、そんな感じの悪口を。


 陰キャラオタクの僕でさえそう思うんだから、ほとんどの人もそう感じているだろう。


「おい陰キャ、お前最近調子に乗りすぎじゃね」

「正直言うと、うぜーんだわ」

(いつかは来ると思ってたんだよね……)


 授業間の小休憩。用を足した後にトイレを出ると、待ってましたと言わんばかりに二人の男子生徒に囲まれてしまった。二人の男子は僕と同じクラスのイケメンで陽キャの、クラスカースト上位の人達。初めの頃は、彼等が安藤さん達と仲良くしていた。

 そんな陽キャイケメンの二人が陰キャオタクの僕なんかに用があるとすれば、安藤さん達絡みでしか考えられない。


 というか、僕はいつかは来ると思っていたんだ。陰キャで冴えない僕が、超絶美少女ギャル達の三人と仲良くしている。きっとクラスメイト達は不可解に感じていただろうし、男子生徒達は不愉快に思っているだろう。

 “なんであんな陰キャが”と、邪険に思っている筈だ。だから、誰かがいちゃもんをつけてくるのも、時間の問題だと思っていた。


「僕、調子になんて乗ってないけど……」

「乗ってんだろぉ~?後ろの席で、安藤達と楽しくやってんじゃね~かよぉ」

「お前さえいなければ、俺達が安藤達とつるんでたんだぜ」

「そ、そんな事言われって……僕はただイジられてるだけだし……」


 下を向きながらそう告げると、イケメンAは無遠慮に肩を組んでくる。


「そんなのさ~お前が反応しなきゃいいだけの話だろ~?」

「あいつらはお前をイジって楽しんでんだから、一々反応しなきゃあいつ等だってすぐに飽きるって」

「……」

「なあ黒崎、空気ぐらい読んでくれよ。みんな、お前がそのポジションにいるのは場違いだって思ってんだからさ~」

「お前だって、イジられ続けるのもしんどいだろ?だから、ちょっと我慢すりゃいいんだって」

「……」


 僕の無言を肯定と捉えたのか、イケメンAは身体から離れて、バシッと背中を叩いてきた。


「んじゃ、よろしく頼むぜ」

「自分の立ち位置をよく考えろよ、陰キャ君」


 そう言って、二人は下卑た笑みを浮かべながら教室に戻っていった。

 その場に残るぽつんと残る僕は、大きなため息を吐く。こういう風に絡まれてたのは初めてじゃない。一時期調子に乗っていた中学時代にも、こういう事はあった。だからか、それほどビビッたり嫌だなーと感じたりはしなかった。あくまで内面の中では。


 彼等の気持ちも分からなくはない。自分達が仲良くしていた美少女が、陰キャオタクとつるみ出して、自分達と関わらないようになったのだから。もし僕が逆の立場だったら、なんでだよと苛立っていただろう。まるでNTRじゃないか!と心がすさんでいたかもしれない。


 ただ、僕が彼等の立場だったとして、今のように陰キャオタクに直接釘を刺す真似をするだろうか。自分本位の為に、誰かを脅したりするだろうか。実際に彼等の立場に立ってみなければ分からないが、僕はそんな卑怯な真似はしないと、自分を信じたかった。


 教室に戻り、窓側一番後ろの主人公席に座ると、隣の席のスーパーギャル安藤さんが面白そう表情を浮かべて話しかけてきた。


「結構長かったじゃん。もしかして、我慢できずに個室でシちゃった」

「違うよ」

「……えっ?」


 淡々とした声音で返すと、安藤さんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔を浮かべる。きっと、僕がキョドると思ったのに、冷静に返答したことが意外だったのだろう。

 僕は長い前髪に隠れた目で教室の中を見回す。黒板の近くにいるイケメンAとBが、ニヤニヤしながらこちらの様子を窺っていた。一々確認するとか、あんたらメンヘラかよ。


「ふぅ~」

(~~~~~ッ)


 突然、右耳に息を吹きかけられ、こそばゆく身体がゾクゾクする。安藤さんの悪戯だろう。僕はリアクションをしないように我慢して、安藤さんに向き直る。


「ごめん……安藤さん。そういうの、もうやめてもらっていいかな」

「あん?」


 安藤さんが真顔になる。自分の胸が苦しくなるのを実感しながら、僕ははっきりと告げた。


「正直、イジられるのが嫌なんだ。だからさ、もうからかわないでくれるかな」

「あんたそれ……本気で言ってんの?」

「うん……」

「……あっそ」


 その日の放課後まで、安藤さんは僕をイジる事はなかった。



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