s1.7 アイスティーの鏡面。
その日の夜。わたしは枕に顔をうずめ、史書の文章を思い出していた。あの本にはアルメラに関する記述以外にもショッキングな内容がつづられていた。
「
お母様の死因が淡白に記されていた。肉腫とは要するに
ガンの要因は幾つかある。そして特定もできない。食事などの生活習慣は、毒物のように明確ではない。喫煙のような薬物であれば主要因になるかも知れない。しかし、ガンは意図的に起こす方法が存在する。
人間の肌は日の光に
さらに言えば、放射線
これらに共通するのは、どちらも高エネルギーの光であるということだ。高エネルギーの光は細胞組織やDNAに衝突し、構造を破壊する。
「ひかり、……光魔法。」
光魔法について調べよう。光魔法が物理学の光と関係があるかは分からないけど一考する余地がある。
原作で登場する光魔法が扱える人物は誰だっただろう。悪役令嬢アルメラの他には、……国王陛下が使えた。王太子殿下は闇魔法だけだ。
「あとは……、勇者?」
光魔法といえば勇者がいた。名前はクランス・ゲーテ・ナナ。平民出身だが勇者の素養を認められてから、ナナ子爵家へ養子に入る。
ゲーテ・ナナ。……聞きおぼえあるような無いような……。
思い出せそうなのに思い出せない。う~ん……。
雲のような枕を抱きかかえ、思考の海に沈む。
*
「……さま、……お嬢様!」
リラの大声で目が覚めた。わたしは睡魔の誘惑にあらがえないので徹夜は無謀だった。子供は寝たいときに寝たいだけ寝るべきなのだ。
「昨日は
「んに……、たまたまぁ?」
眩しいからと布団を深くかぶる。軽く肌触りの良い生地に包まれると心地よい。
「……あつい。」
夏にすることではない。
「アイスティーをご用意しましたので召し上がりませんか?」
「のむ。」
寝台から足を下ろし、アイスティーを受け取る。
紅茶が寝起きで乾いたのどを潤すと、すっと体の熱が消える。ハーブが効いてるんだ。夏の朝にはちょうどいい。
一気に飲み終えてしまうと、リラにもう一杯を注いでもらう。白磁のティーポットを手に持ってカップを満たしていく。
「そういえば連絡がありまして、あした王太子殿下がこちらにいらっしゃるようです。」
「王太子?」
カップを受け取り一口つける。
「……なんで?」
「なんでしょうね。私にも分かりません。」
紅茶を飲みつつ寝起きでぼやけた
ストーリー本編が始まるのは、今から4年後。ヒロインが14才になり、学園に入学するところから。
だから本編の4年前にあった出来事が重要なはずだ。
「わたし、王太子に会ったことある?」
まずは実在の話から考えよう。
「私が知る限りではありません。」
「だよね。何で明日くるんだろ。」
……待った。
「お爺様に会いにくるのかな、もしかして。」
「ああ、そういえば訪ねてくるかは聞いていませんでした。私としては、殿下はお嬢様と同年ですから、お嬢様に会いに来るものだと。」
お爺様といえば王都警備隊よね。
「お爺様に用事なら、警備隊と協力してパレードをするとか?」
「確かに、王太子殿下10才記念誕生祭がありそうですね。」
なるほど。理由が分かってすっきりした。
明日は自室でのんびり本でも読もう。
悩みなく意気揚々と朝食に向かい、ホットケーキを切り分けているところにお父様にあることを告げられた。
「王太子殿下がチェルシェとの婚約を申し出てきた。」
ホットケーキを口に運ぶ手が固まった。
「……は?」
「チェルシェ?」
惜しみつつフォークを皿に戻し、開け放しの口を戻した。
「ん、……いえ。あまりにも唐突だったので。」
「確かに唐突だったな。すまない。」
「いえそんな、あやまられることではないのですけど。」
それからの話は想像だにしなかった内容だった。
曰く、王太子の婚約者には公爵家から選ぶと決めたはいいものの年齢が近い令嬢がおらず、王室は悩んでいたらしい。そこでわたしだ。厳密には侯爵家の令嬢だが祖父が公爵だから丁度良かった。
呆然とホットケーキを食べ終えて部屋に戻ると、ソファに崩れ落ちた。頬にあたる張り地がここちよい。
「はしたないですよお嬢様。」
「だって。」
「理解はいたしますが、避けられることでもありません。」
そのとおりだと思いながらも、どうして婚約などという話が持ち上がったのか考えていた。
ソファに沈んで瞳を閉じて、真っ暗な視界を観察する。
悪役令嬢モノで婚約騒動は定番だ。くそったれ王子様との婚約回避を目指したり、婚約破棄によって人生が転落したり。
「……そうだ。」
ソファに手をついて起き上がる。
「どうしました?」
王太子と婚約するのは悪役令嬢だ。
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「s1.7 の pv が +1 増えました。」
感謝に堪えません。耐え切れずかりんとうを貪ります。
黒糖じゃない方が好きだけど、黒糖も好き。
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私に極上のエサをください。
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tips. 素人の医学知識を信じちゃダメ。
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