第4話 教授
「やあやあ、久しぶりだね伊宮くん?」
久しぶりに会った教授はそれはもう、誰が見ても上機嫌にしか見えないくらいの笑顔だった。
しかし・・・笑顔とは言っても俺には悪魔がこれから世界でも征服しようかとたくらんでいる時の笑顔にしか見えない。
「お久しぶりですね、随分と上機嫌なようですが・・・」
一先ず、社交的な返しをしておく。
ここは一応大人として・・・きちんと目上の者への礼は失さないようにするのはマナーだ。
「ああ、上機嫌さ。久しぶりに君たちにも会えたし・・・何より・・・」
そう言いながら横目でシグのほうを見ていた。
そりゃあそうだよな・・・あれが本題な訳だし・・・。
「まぁ・・・いつものような何かのトリックか何かだとは思いますがー」
冷静に可能性が高い事を述べていると
「君はそんなだから人間のままなんだよ?もっとこう夢を持たないとさ。現実的に考えてばかりでは人類はここまで進歩しなかったんだぞ」
と、いつも通りのご高説・・・もとい授業が始まった。
人間じゃダメなのか?いやというかその発言が自分は人間じゃないと言っているようにも聞こえるから、普通に考えてイタイ発言だぞ。
「やっぱり!教授は人間じゃなかったんですね!」
シグがそのイタイ発言に乗っかっちゃうのでさらに話がややこしくなる。
いつもの事とは言え、ここは空港だしかなりの人数がいるんだぞ。
「あぁそうさ!私は魔法使いなんだぞ?すごいだろう!何千年も生きているのだ」
とても周りの目線が気になるので適当な所で切り上げさせて教授の家へタクシーで向かった。
いつもながらの普通の一軒家なのだが、かなり広い。
ただし、外の蔵にも各部屋にも荷物が大量にあるせいで外から見たら広く見えても実際に中は結構ギリギリだ。
家とは言っても実質物置のようなもので、教授自体は世界中を飛び回っているのでほとんどをホテルで暮らしている。
いいよなぁ金持ち・・・。
「それで!さぁ見せたまえ!どれだどれだ?」
いくつになっても好奇心を捨てない人は進化し続ける・・・と誰かが言っていた気がするが・・・以外に当たっているのかもしれない。
「これです!この本がー」
シグが例の本を教授に見せながら説明を始めた。
それに対して教授はいつも通り・・・じゃない?・・・いつもなら目をキラキラと輝かせて子供のようにはしゃぐのに真面目な顔をして聞いている姿に俺は驚いた。
そうして説明を聞き終えてから、教授は本を手に取り何をすることもなくただじっと見つめている。
シグも異変に気がついたようでつい黙り込んでしまった。
それも当然だろう、シグがこんな教授を見たのは初めてなのだから。
沈黙してしまいまが持たなさそうなので何か言わねばと思っていると
「なんだ、ただのトリック本か」
なんだそりゃ!俺の焦りと驚きを返せ!と一瞬喉まで出かかったが飲み込んだ。
俺は知っている。こういう時の教授は何かしら答えを知っている時の態度だという事を。
そしてそれはシグにすらも伏せなければならない事なのだという事も。
前に、大学でストーカー事件が起きた際に話を聞いただけで誰が犯人かまで瞬時に悟り内々の内に処理してしまった時もこうだった。
もちろんそれ以外にも色々あるのだが、まず滅多な事でこうはならない。
「ありゃー、なんだ・・・また外れかぁ」
シグが肩を落としながら落胆するもすぐに気を取り直した顔をして教授から土産話しを聞き出し始めた。
土産話を始めた教授はいつも通りに戻って、やれ宇宙人は海にいるだの海の底は別の世界に繋がっているだのと話していた。
そうしたやり取りが終わり、時間も夜になりシグを駅まで送り帰路に着こうとした時に教授から連絡が入った。
「シグを送ったら私の家に来い」
普通の男が見たら喜ぶだろう文も、俺には違う意味に見える。
しかし、教授の家まで20分くらいは掛かるしもう夜8時を回っている・・・行かないで電話で済ませてもいいだろうかというメッセージを送ろうとしていると
「タクシーを駅に呼んで止めてあるから早く来い。来なかったら私がお前の家に行く」
手が早すぎる!、仕方ないと諦めて指定されたタクシーに乗り込み教授宅へ向かった。
家に着くと教授は本をテーブルの上に置いて座っていた。
「すまないね、呼び戻して」
そう言いながらコーヒーが用意されていたので、教授の向かいの席に座った。
「この本について話して置きたい事があるのさ」
そう言われ、俺は緊張しながらも教授の言葉に耳を傾けた。
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