第3話 本
「これって、もしかしたらもしかするんじゃいですか?」
興奮気味に騒ぐ後輩のシグを見ながらも冷静に思考を巡らせて見た。
まず、何かのトリック・・・ではなさそうだ。
何度か他のページを開いて書いて見たり、筆圧だけ残っていないか等も確かめて見たが何も書いていない状態でしかない。
「ほら!前に先輩が言っていた、アーティファクトって奴じゃないですか?」
アーティファクト、失われた文明だったり遺跡だったりいろんなゲームに使われている有名な存在である。
「いや、ただ文字が消えるだけでそれはちょっとな・・・」
アーティファクトといえばそれこそ、魔法の類だったり神の遺物という物だ。
このバリバリの機械文明の現代において「あったらいいよね」的な偶像のレベルの代物である。
そもそも、今の文明ってもう魔法レベルだと思うんだが。
こういう時は・・・あまり連絡は取りたくはないけど教授に聞くしかないか・・・そう考え初めた時。
「あ!、真坂教授にはもう連絡したんですよ!そしたらもう興奮しちゃって、来週日本に帰ってくるそうですよ!」
真坂教授、本名「真坂美幸」であり今は教授ではなく考古学者なのだがどうしても昔のクセが抜けないから教授と呼んでいる。
シグは小さい頃から遺跡の類が好きで、こじらせすぎてSNSで教授と知り合ったそうだ。
「なんという・・・か、その行動力は賞賛に値するな」
もはやこれまで・・・という観念にも似た感情から出た言葉だった。
まぁ結局、連絡はする事になっただろうから手間は省けたが。
「いやーだって!もしかしたらってことも!!」
だからそんなものは無いんだって・・・。
考古学をしていて思うが、遺跡はあくまでも昔の人間の文明の名残であり痕跡なのだ・・・しかしシグがこうなってしまったのは教授のこの一言せいである。
「人間は目で見て聞いて体験した事でしか想像することが出来ない。つまり魔法や神様がいなければそんな創造は出来ないのだ。ということは人類は既に過去で経験している可能性がある」
とんでもなく理屈的で・・・そして筋が通っているように思える。
しかし、現代の機械文明を数千年後の人が見たら魔法だと思うだろう、つまりは自分にできないこと・その時代で証明できないことは総じて魔法という事にもなりえる。
一見すれば夢のある教授の言葉だが、冷静に考えてみればそういう現実的な考えも出来るという訳だ。
「とりあえず教授を待つしかなさそうだな」
そう言いながら注文したコーヒーに口を付けた。
教授はそもそもが得体の知れない部分が多い人で、考古学者とはいえ金に困っているのを見たことがないし・・・何より10年以上の付き合いなのにも関わらず容姿が変わっていない。
まぁ、最近の整形技術もすごいし・・・そもそも10年程度じゃ変わらない人もいるからなんとも言えない。
金に関しては親の遺産や宝くじ・・・可能性を上げればキリがないし。
「しかし、本か・・・」
本というのが引っかかる、今までの遺跡からの調度品や珍しいものの類では見たことがない。
あるとしてもせいぜいが中世程度の書物や歴史の類に関係する程度の物。
それらも記載があり、それを読み解くのが仕事の時もあるのだが何も書けない・書いていない本というのはちょっと不思議に思う。
「グリモアだったりして・・・!?それとも予言書?いやいや、実は世界の理を記録した本で見るには条件がー」
こうして妄想するのがシグのクセなのだが、結局全部ゲームとかの創造だったり既出の知識しかないので大体が聞いたことのある名称になってしまう。
そもそも、グリモアが蚤の市に売られてたまるか。
悪魔と契約出来る本だぞ・・・悪魔がいる事になってしまうだろう。
そういつも通りのツッコミのやり取りをしていた。
この本が全ての始まりであり、全ての秘密であり、そして全ての世界を知る鍵になるとはこの時の俺たちはまだ知らなかった。
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