お城の隠れスポットで勉強する僕とそこに侵入してきた少女の話

羽希

第1話 隠れ勉強スポットを見つける

僕がその快適な勉強スペースに気づいたのは去年の夏。

埼玉に住んでいる従兄弟がうちに遊びに来た時のことだ。


小学2年生の従妹が近所にあるお城に興味をもち、行ってみたいと駄々を捏ねた。


標高わずか80メートルの山頂に建てられたそのお城「石山城」は地元では知る人ぞ知る残念スポット。せがまれた僕は当然渋った。


 城の中は近代の建設技術によって作られた展示場になっており、当然当時の面影など残っていない。展示物はわずかながらの出土物と当時の生活様式を記述したパネルがあるだけだ。

真面目に見物しても30分もあれば十分に1階から3階まで見て回れてしまう。

軽く見るだけならば5分もかからないだろう。


 そんな残念スポットにわざわざ足を運びたくなかった僕は従妹にあれやこれや吹き込んでみたが、どうしても行きたいと泣きじゃくる。

見かねた母が僕に連れて行くように強制するものだから、しぶしぶ連れて行く事になってしまった。


城へ連れて行くと、当然というか従妹はすぐにとても微妙そうな顔になった。

僕はその従妹のがっかりした姿を見て笑い転げた。

僕はそれだけで入場料分は楽しんだ。

何せ入場料はたったの30円。大人でも100円しかとらないのだ。


笑われた従妹は何かしら面白いものを見つけようと躍起になり城の階段を駆け上がっていく。僕はその後を追って3階へ向かう。

その時時ふとあることに気づいた。


 3階の1角に2人がけのテーブル席が1つ設置されていたのだ。

ちょうど展示パネルと柱の影に設置されており一見しただけではとても見つからない。

何故こんなところに?と疑問に思ったが、その時僕が思ったのはそれだけだ。

その日はがっかりしている従妹をからかいながら家路についた。



 次にその穴場について思い出したのはその年の夏休みも中盤に差し掛かった頃だ。

 従妹はもう埼玉に帰っていたが、代わりに妹が頻繁に友達を家に連れて来て遊んでおり騒々しい日々が続いていた。僕は勉強したいから静かにしてくれと何度も言ったのが、一向に僕の言うことを聞いてくれない。根負けした僕は図書館の自習室で勉強することにした。


しかし、僕と同じ様な境遇の人が多いのだろうか?

自習室はいつでも満席だった。


けれども、うちにいても勉強は捗りそうにない。

他にどこかいい場所はないだろうか、そう考えた時にふと頭のなかにあの城のテーブル席がよぎった。


もしかして、あそこなら静かに勉強が出来るのではないだろうか?


 実際にそこへ行ってみるとその場所は予想以上に快適であった。クーラも効いている上、照明も程良い。

トイレも近く、のどが渇けば1階には自販機とウォーターサーバーが設置されていた。

そしてなにより静かである。集中するにはもってこいの正に最高の環境であった。

ただ他の人へ迷惑をかけないかだけが心配だったが、もともと城には殆ど人が来ない上、一目からは死角になっており気づかれることも殆どなかった。


僕はその日最高の勉強スペースを手に入れたのだった。

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