第六章(4)
宿屋を出たところで、デイスとアルクトと行き逢った。
揃って雑嚢を肩に担いだ旅姿で、どこを目指しているのであれキーヴァンさんの酒場とは違う方向へ行こうとしている。
「ふたりは出発するの?」
ボクがたずねると、デイスは、にやりと笑い、
「オレたちは、この街の北にある【
「傭兵時代の仲間が、いまはそこでオフクロさんや妹さんと一緒に葡萄酒を作ってるんだよねー。いやー、帝国軍が迫ってる状況で、オレたちが村の近くにいたなんて、すげー偶然だわー」
アルクトも、にやにやとして言う。
ボクは小首をかしげ、
「仲間って、女のヒト?」
「まあ、あれでもオンナに違いないわなあ」
「どうして二叉樫の村にいる昔の仲間が女だってわかったってーんだ、フェルにゃんちゃん?」
「だって、ふたりとも顔がニヤけてるから」
ボクが答えると、デイスとアルクトは顔を見合わせて、吹き出し、
「ニヤついてる理由は、フェルにゃんちゃんが考えてるのとはちょっと違うと思うぜえ」
「ヤツが困ってる顔を見て、帝国軍から逃げるのに手を貸して恩を売れるってーのが、うれしーんだよねー」
「言うまでもないことを言っちゃうけど、ふたりとも、くれぐれも気をつけてほしい」
ボクは言った。
「帝国軍の先鋒が、どこまで迫ってるのかわからない。ノアルドは馬を飛ばして来たと言うけど、実際は諸侯の行軍を避けて回り道をしてると思う。たかが冒険者が軍勢を追い越して進むわけにはいかないからね、共和国の密偵と疑われそうだし。だからノアルドが見ていないだけで、帝国軍はかなり近くまで迫っているかも知れない」
「そのときは空っぽの酒樽に押し込んででも、有無を言わさず逃がしてやろうかねえ」
「先祖代々の葡萄畑を守るために戦うとか勇ましいこと言っちゃいそーな、ちょーっと頑張り方を間違えちまいそーなヤツなんだよなー」
デイスとアルクトは、また顔を見合わせて、けらけら笑う。
ふたりがそこまで気にかけるほど、ちょっと危なっかしくて可愛らしい女性なのだろう、元傭兵仲間は。
ボクも、にっこりと笑って言った。
「ボクはもうしばらくこの街にいることになりそうだから。ふたりがお仲間さん一家を連れてここに戻ったとき、手助けが必要なら遠慮なく声をかけてほしい」
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