第四章 ニャンコも怒るときは怒るのだ(怒ってないときもありますよ?)

 

 

 

 唯一神信仰において最初に神の言葉を地上に伝えたとされる聖預言者の言行録──【聖典せいてん】には、獣人について何も記されていない。

 一方でニンゲンは神の似姿にすがたであるとして、ヒトの本質は「善」なのだと聖預言者は説いている。

 そのことがいつの間にか曲解されて、唯一神信徒の間で獣人は、ヒトとケモノが入り混じった神から遠い存在として排撃されるようになった。

 確かに顔面とてのひら、足の裏以外の全身をふさふさした毛に覆われた一般的な獣人の姿はニンゲンと見た目に違いがある。

 個々の身体能力はニンゲンより高いものの、個体数の少なさゆえに社会的にも少数派の立場に置かれている。

 そこに宗教が絡むことで、多くのニンゲンが何らの罪悪感もなく獣人を差別的に扱うようになったのである。

 唯一神信仰が成立した当初の信徒集団に獣人も参加していたことは教団外部の歴史資料に記録されているものの、一般庶民の信徒は歴史書など読まない。

 むしろ少なからぬ聖職者が聖典至上主義の立場から教団外部の史料を【偽典ぎてん】と呼んで否定した。

 一部の心ある聖職者は逆に聖典に獣人への言及がないことから、獣人を罪人つみびととして扱うことこそ聖典の軽視だと訴えたけど、そうした公平な考え方は信徒の間で広く受け入れられるには至らなかった。

 神の恩寵も獣人には及ばないというのが唯一神信徒の間の一般的な認識となった。

 彼らによればボクたちは、悔い改めることさえゆるされないのである。

 

 

 

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