第三章 ニャンコぎらいは損をするのだ(必ず後悔させるのだ)

 

 

 

 ──世界の中心には海があり、世界の外側にも海がある。

 

 古代の博物学者がのこした言葉は、そのまま現在でもオトナが子供たちに世界の地理を教えるときに使われている。

 世界の中心にあるのはなかの海で、それを取り巻いて現在は、北に【帝国ていこく】、東に大帝領、南に【首長国しゅちょうこく】、西に王国という四大国が位置する。

 帝国の北と王国の西には、どこまでも続く【そとの海】があり、大帝領の東と首長国の南には砂の海が果てしなく広がる。

 獣人であるボクも同じように教わって育った。

 実際には世界はもう少し複雑で、中の海だけ考えても大小無数の島が浮かび、陸地からはいくつもの半島が突き出している。

龍首りゅうしゅの半島】と呼ばれるのは、その中でも特に大きなものだ。南を上にして地図を描くと龍の鎌首のような姿になることが名前の由来である。龍の胴体にあたるのが帝国だけど、王国からも距離は近い。

 面積は王国の三分の一ばかり、帝国と比べれば六分の一ほど。統一した王権は存在せず、貴族領主と自治都市が割拠して小競り合いを繰り返し、それぞれの国力は中の海を取り巻く四大国と比べようもない。

 ところが半島の西岸中部には、唯一神の地上における代弁者たる【聖主せいしゅ】様のおわす【聖都せいと】がある。

 半島に割拠する貴族領主や自治都市は名目上は聖主様の臣下であり、唯一神信仰を国教とする帝国や王国は迂闊うかつに手を出すことができない。

 一方、絶対神を信仰する異教国家の大帝領や首長国が聖都をおびやかした場合、帝国と王国が手を携えて「信仰の危機」に立ち向かうであろうことは目に見えているから、大帝領と首長国にしても半島の攻略をたやすく考えるわけにいかない。

 結果、龍首の半島の弱小諸侯と小都市は、そのまま生き長らえることをゆるされてきたのであった。

 龍の左肩、半島の東のつけ根に位置する一都市──浮島の港が共和国を称して、急激な勢力伸張を見せ始めるまでは。

 

 

 

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