第9話
(9)
クロスバイクを漕ぎながら僕はJRの架線沿いを進む。中津の中心部から離れて、僕はスカイビル方面へと進む。途中、京都行きの快速とすれ違った。僕からは乗客の顔は見えないが、向うからはこちらの顔が見えている筈だ。汗だくになりながら、ハンドルに取り付けたスマホ画面を鬼の形相で睨みつけて脇目も振らず走る僕の姿を。
――なんだって休日にこんな目に合わなきゃいけないんだ
僕はギアを一段入れる。
スピードを上げる為に。
自分の今の不幸ともいえるこの時間。
これが時間を交換する、つまり幸福と不幸をする『呪い(ギアス)』 の責めなのかと思うと、今まで自分が無視(しかと)してたのを反省もしたくなるが、しかしながらこんなことが現実に許されるのか、とも思いたくなる。
あまりにも非現実的な世界を『現実世界』で生きている自分という存在。まるで本当の自分は未だどこかで眠り続けていて、夢の世界を生きているのじゃないか、そう思いたい自分は、ただしかし今は精一杯、勤めを果たそうとしている。
魔術師として。
それも無償(ただ)で。
だが、僕はスカイビルに輝く夏の陽を見て思った。
メールに書かれていた比嘉鉄夫。
奴は一体、何者だというのだ。
それだけじゃない。
――近辺で発生した大小の事故
そして
――『魔力』は天体からの惑星落下(メティオ・ストライク)型
それらは一体どういう事なんだ?
僕は手の甲で額から流れ落ちる汗を拭い取るとスカイビルの敷地内に滑り込んだと言いたいのだが、僕は唯、起動している『魔術師の目(マジシャンズアイ)』の指し示す方向に従っているだけだ。
先程、松本からのメールを見た後、直ぐにこいつが起動した。起動するとダイヤモンド型の中にある目がぎょろりと動いてずっとある方向を見ている。
それを見て僕は瞬時に思った。
こいつはきっとコンパスを兼ねているんだと。
じゃぁそれはどんなコンパスかと言えば、
――比嘉鉄夫の現在位置を指し示すコンパスじゃないかと
だからこそ、僕は超凝視(がんみ)して懸命に目が指し示す方向へクロスバイクのペダルを漕いだんだ。
全ては『魔術師の目(マジシャンズアイ)』に任してひたすら懸命に。
そして遂に辿り着いた場所が此処スカイビル。
大阪北部で強大なモニュメントビルの一つ、そして僕の中ではもっとも空に近いビルだと思っている。
僕はクロスバイクを敷地内の木陰に急ぎ停めると日曜の休日を愉しんでいる人々を抜けて、スカイビル内に駆け出そうとした。
その時だった。
危ない!!と叫ぶ大きな声が辺りに響いた。
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