第4話

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 それから二時間後、僕は御堂筋線の中津駅に居た。

 中津駅は小さな駅だ。そもそも中津というとこの御堂筋線の中津駅から阪急中津駅までの界隈を大きく含み、またその中央部には人が二、三人並んで肩がぶつかりそうな小さなアーケドの商店街が淀川に向かってほぼ扇形に開いている。

 下町ではあるが、天神橋や難波、また最寄りの梅田とは違った独特の雰囲気を持っていて、その商店街のほぼ真ん中に古書店『古風堂』があった。

 僕はその古書店の木像の引き戸を開けたのが三十分前だから、僕の行動は意外と早かったというしかない。

 いや、早かったというか、ほぼ、ウォーキングから帰宅して直ぐにシャワーも浴びず、クロスバイクに跨り走り出した、その結果と言って良かった。

 中津にある古書店『古風堂』。どうしてそこに僕が居るのかと言うのは、松本の指示なのだ。

 電話が切れるや否や、松本からLINEが来た。


 #こだま君、

 じゃぁ急いで中津にある古書店『古風堂』へ行って下さい。地図のURL貼り付けときます。


 

 ――何だよ、勝手に指示しやがって。

 

 でも僕は着替えるやクロスバイクで走り出す。しかし走り出しながら僕は考える。

 何でこんなことをしないといけないのか。


 ――それは僕が魔術師で魔術師組合員だからである。

 

 確かにその答えになるのは分かるけど、そもそも、魔術師なんてどういうことともうだろうし、それに僕は好きで魔術師(コレ)になったわけじゃない。

 一年程前なんだけど、ほんの些細なことで僕は或る事件に巻き込まれた。

 或る事件とは何か?

 それはミレニアムロックという魔法封印を僕が解いてしまったという事件だ。

 まぁもっともらしく僕は言っているが、普通の人には何のことか分からないだろう。そもそもミレニアムロックとは何なのか。それは神様が地球の環境を維持するために遥か古代に地球の環境をセーブするために異常気象を封じ込めた装置がミレニアムロックと言われ、まぁそれを僕が偶然解除して、地球をピンチに陥れてしまったのだ。おかげで巨大な台風を日本に引き寄せてしまってけど…

 いやいやそんなこといってもやっぱりてんで分からないことに違いない。だからもうこれ以上は言わないけど、その時、僕を助けれてくれたのが電話口で話した松本という人物で、その彼が魔術師だった。そして彼と行動を共にするうちに僕も魔術を使える様になり、遂に魔術師になった。

 まぁもう支離滅裂な事を言っているのは分かっているけど、おかげで非日常的な世界の住人になってしまったという訳で…。そのミレニアムロック事件は円満に解決したのだけど、その後、僕は魔術師組合の組合員にさせられた。

 だって松本が言うんだ。


 ――もし入らなければ、こだま君、刺客を送り込みますよ。

 


 おいおいだよ。


 ミレニアムロック事件でこの世界とは違う異常さを現実に目のあたりにした僕は松本のいう事を渋々了承するしかなかった。

 だけど一度でも組合員になると、死ぬまで義務が課されるみたいだということを後で知って驚いた。

 先に言ってくれよと思ったけど、その義務って言うのが魔術師として社会発展に役立つということだった。


 じゃぁそれがどんなことかと言うと

 

 ――例えば

 逃げ出した魔獣を探してくださいとか

 魔道具の修理をしてくださいとか。

 独身男性ですが、結婚できる魔女師を「紹介してくださいとか


 もう役に立つのかどうなのか分からないくだらないことの連続で、正直世界の表に出てこないことばかりなんだけど、正直、会社で働きだした時は凄くうざいし、だるいし、本当にそんなことなんてできないっちゅうの!!という気分で、当然無視(シカト)してた。

 だって普通の会社員だぜ。

 それに僕にも自由がある。

 給料も今の就職先から貰って生活をしている。その為に引っ越しもしたし、人生これからを謳歌しようと思っている。


 それで無視(シカト)して過ごしている内に突然スマホにあるアプリが入っていたんだ。それが『魔術師の目(マジシャンズアイ)』

 なんじゃこれは?と思って松本に連絡を取ったら


 ――ああ、こだま君これね、新しい『呪い(ギアス)』なんですよ。最近全く魔術師活動もしない幽霊組合員、特に若手が増えてるもんだから、組合(ギルド)本部で若手魔術師のスマホに入れることに決まったんです…



『呪い』!!だって。

 おい!


 ――そのアプリの目が『魔術師の目(マジシャンズアイ)』といって監視アプリなんですけどちゃんと活動しないと『呪い』が課されるんですよ…


 どんなんよ!!

 痛い奴は嫌だぞ!!


 ――ああ、それは心配しなくていいです。唯、『時間』を交換するんです。


 なんだぁ、

 それらないいじゃん。

 時間なんて痛くもかゆくも無いし。


 ――ですかね?まぁちなみに『時間』の高官は幸せの時間と嫌な時間を交換するんですけどね。


 ん?

 どういう事?

 それは?


 ――つまり分かり易く言えば不幸の時間が人生の中で増えるという事です。


 ダメじゃん!!

 何でそんな事すんの!!

 あんたらは!!



 ――いや、だって働かない奴が多いから。ちなみに僕も入れてもらいました『魔術師の目(マジシャンズアイ)』、なんかタトゥーみたいでかっこいいから…


 それで松本は電話を切った。


 それからというもの僕は日々このアプリを見て、色んな仕事がアップされるかどうか確認をしていたんだけど、やっぱりというか、最初は気になっていたけど、その内無視(シカト)した。

 やっぱりだろうか、

 職場でも急に腹痛がおきたり、車からおりたら鍵をなくしたり、会社のパソコンがフリーズしたりと何かとそうした事が増えて、時間が交換されている気がした。

 だからとは言わないけど、やっぱりやばいんだなと思い始めた矢先、松本から電話が来た。

 それもよく考えるとその『不幸』も僕が無視してしまった結果かもしれない。それも最大の『不幸』として形を現して。

 だから話を戻せば、何でこんなことをしないといけないのかという答えは、『幸せ』な時間を取り戻そうという事なのかもしれない。

 だから僕は中津の古書店の中で、今も変な親父さんと向き合って、或る説明を聞いている。

 それが『時間』を取り返せると信じながら。

 では、その話とは何か。

 それは『魔香石(ラビリンストーン)』についてである。

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