第5話 アーク 6

モンスター兵士達は退却していった。

炎と煙で赤黒く染まった空を埋め尽くしていた黒い影達は、自分たちが出てきた空のわれめへと帰って行った。

濃い赤紫色に見えた空間の割れ目のような所は、兵士たちが退却し終わると、何もなかったように消えてしまった。


神や剛、そして一緒にトラックに乗っている兵士たちは、まだ、敵の呼称すら、正式に決まっていないことに、改めて恐れを抱いた。


トラックは2時間ほど走り、休憩を経て、さらに2時間走った。

町を2つほど通り過ぎたが、どの町でも正体不明の敵の攻撃を恐れてか、逃げ出す算段をする人混みで、混雑していた。

トラックも、何度か渋滞につかまった。


移動の間、通信機を使って、生き残った者達と連絡が取れないかと試みる者が居たが、同基地の脱出者とは、連絡が取れなかった。

それもそのはずか。神は思った。

退却命令が出る前に、基地は壊滅したのだ。

壊滅前に逃げ出したと言う事であれば、敵前逃亡と言われかねない。


もうすっかり日が落ちて、街明かりが、まるで何事もなかったように輝いている。

しかし、数十キロ離れても、基地の辺りから見える火災は、隠しようがなかった。

基地の備蓄燃料庫がやられたのだ。

大きな火災になっているはずで、本来ならばその消火に当たらなければならないのだが、本部は、基地を放棄するように指示を出したらしい。

その指示を、このトラックに乗る通信兵も聞いていた。

生き残りを集めて、命からがら逃げ出したというわけだ。


敵が去ったので、航空隊による消火作業が始まったらしい。

ここからでも見てとれるほどである。

5機ほどの編隊が、頭上を通り越して、基地方面に向かった。

あれは消火用の水や薬剤を満載した飛行機である。

いくつかの編隊が、近隣の基地から発進したのだろう。


それにしても、如何に急襲を受けたとは言え、近隣からのスクランブルはなかったのだろうか?疑問の残るところだが、敵接近から攻撃を受けて10分くらいで基地が壊滅してしまったのである。それに、この敵は、終始レーダーに映らなかったのだから、近隣基地のスクランブルが遅れてしまったのである。


「もう少しで、目的地だぜ!」

町並みや景色を眺めていた兵士が言った。


地球の別次元の鏡として存在するこの星は、あまりセンスの良くない名前で呼ばれていた。

テラ2、そこには生命体は何も存在しなかった。

次元断層を見つけた人類が、はじめて宇宙の狭間を越えて、この星にやってきた時には、無尽蔵に思える資源と土地と、空気と水だけが存在していた。

食べ物になる植物や、動物、プランクトン等の微生物、ウイルスさえも発見されなかった。

ただ、環境は整っていたので、人類は300年かけて、この大地を、生活の基盤として使えるものに改造していった。


軍事基地を作ったのは、未知のこの地で生活して行くために、恐怖心を打ち破る必要があったのと、万が一の備えだけの目的であった。

それがまさか現実のものになろうとは、誰も思わなかった。


兵士達はトラックから身を乗り出して、目的地である第81基地を視界におさめようと探した。

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