第9話 夢幻の世界での戦い
弾き飛ばされたナイフは地面を転がった。
夢食みジャックは夢刈りと呼んだ大鎌を肩にかついだ。
「くそ、僕は選ばれた人間なんだ。こんなところでやられるわけにはいかないのだ」
そう言い、吊られた男はロープを手繰り寄せるとまたぶるんぶるんと振り回し始めた。
ナイフは弧を描き、空中を舞い、風を切り裂く。
「そうだ。お前のアルカナを奪ってやる。そうすれば僕は
ふひゅうふひゅうとまたあの呼吸音を発しながら、吊られた男は言った。
「やれるものならやってみな」
対する夢食みジャックは余裕の表情だ。
それだけ生きているのではないかと思われるほどの動きでロープにくくりつけられたナイフが夢食みジャックの顔面めがけて飛来する。
ナイフは風を切り裂き、最後には夢食みジャックの画面を切り裂くべく襲いかかる。
もし当たれば夢食みジャックの愛嬌のある顔はザクロの実が割れるように真っ二つに裂けるだろう。
夢食みジャックは青い唇をにやりとさせると、再びランタンに息を吹きかけた。
紅蓮の炎が周囲に舞う。
その真っ赤な炎は大鎌にまとわりつく。
大鎌こと夢刈りは炎で燃え盛る。
夢食みジャックは夢刈りを軽々と振るうと地面を蹴った。
ナイフがもと夢食みジャックの顔があった場所を通過する。
ナイフの攻撃をかわした夢食みジャックは一気に距離をつめる。
吊られた男はまたナイフを引き寄せる。
今度はそれを手に持った。
距離をつめる夢食みジャックに対してナイフをかまえると今度は彼女のボリュームたっぷりの胸めがけて突きたてる。
そのままではナイフは夢食みジャックの心臓に突き刺さるだろう。
だが、彼女はここで人間離れした身体能力を見せつけた。
これこそが彼女が人間ではない証明になるのかもしれない。
夢食みジャックは大きく背をのけぞらした。
頭に乗ったつば広帽が地面につくほどだ。
ナイフはまたもや空気だけを切り裂く。
夢食みジャックはすぐにもとの体勢に戻ると驚愕の表情を浮かべる吊られた男の右肩めがけて大鎌を突き立てた。
炎に包まれた夢刈りは吊られた男の右腕を切り裂いた。
大量の血液を流しながら、吊られた男の右腕がぼとりと地面に落ちた。
「ぐぎゃあああ!!」
醜い悲鳴を上げ、無様に地面をのたうち舞う。
僕はその光景を見て正直いい気味だと思った。
やつのせいで何人もの罪のない子供たちが殺されたのだ。
一度死んだぐらいではその罪は決して消えない。
奴はもう一度死の苦しみを味わってもらわないといけない。
やれるものなら自分の手でやりたがったが、どうやらこの夢食みジャックという謎の女がやってくれそうだ。
僕は心の中から彼女に感謝した。
腕の中のヨウコもこの戦いをじっと見ている。
妹と同じ名を持つ彼女もこの戦いを見届ける権利があるのだ。
地面を転がる吊られた男に夢食みジャックは大鎌の切っ先を突きつける。
その刃は地獄の業火のように燃えていた。
「ひいいっっ。ゆ、許してくれ。許してくれよ」
情けなくこの吊られた男は泣き叫び、命乞いをしている。
「なんだいさっきまでの威勢はどこにいったんだい。アタシはもっと戦闘を楽しみたかったんだけどね」
夢食みジャックは器用にランタンを持ちながら、スキットルからぐびりぐびりと中身を飲んだ。
「駄目だね。おまえはそうやって助けをこう子供たちを自分の欲望の慰みものにしたのだろう。今度はお前のばんだよ」
冷たく夢食みジャックは言った。
大きく夢刈りを振りかぶると彼女は一気に降り下ろした。
「や、や、やめてくれ」
吊られた男がそう叫ぶが夢刈りは動きを止めない。
夢刈りの切っ先が吊られた男の首筋に突き刺さる。
そのまま夢刈りは吊られた男の首をはねてしまった。
「アルカナ所有者だというのにあっけないものだね」
落胆した声で夢食みジャックは言った。
夢食みジャックは地面に転がるバラバラになった吊られた男の死体にスキットルの飲み口を向けた。
不思議なことに男の死体にその飲み口にむかって吊られた男の流れ出す血液が吸いとられていく。
あっという間に地面には干からびたバラバラの死体だけが残った。
「どうやら
ケケケと下品な笑いを夢食みジャックは浮かべた。
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