第5話 小瓶に浮かぶ物

 背後ではまだあのふひゅうふひゅうという呼吸音がする。

 僕たちはその声から逃げるようにアスファルトの道路を走った。

 公園を出た僕たちはある家にたどりついた。


 その家はかなりの大きさの家だった。

 それなりに裕福な家庭なのだろう。

 調度品もこったものばかりだった。

 ヨウコはある部屋で立ち止まった。

 僕はその部屋のドアノブに手をかける。

 僕はその部屋の中を見て驚愕した。

 思わずうっと声をもらしてしまった。


 部屋の両端の棚には瓶に入れられた体の一部が並べられていた。

 鼻や目玉、唇、指などがよくわからない液体に浸かり、浮かんでいた。

 僕は口に手をあてる。

 吐き気を覚えた。

 口の中の唾液が酸っぱくなる。

 油断すると胃液が逆流して吐いてしまいそうだ。

 ヨウコが棚に飛び乗り、ある瓶の横に座った。

 その瓶には小さな人差し指が浮かんでいた。

 それは葉子の指だ。

 その瓶を抱き締め、僕は泣いた。

 涙が勝手に頬をつたう。

 ヨウコがその涙をなめた。



 ふひゅうふひゅうふひゅう。

 またあの呼吸音がする。

 その音を聞き、僕はあわててその部屋を出た。

 ヨウコと一緒にクローゼットに隠れる。

 どうにかやりすごせるだろうか。


 ふひゅうふひゅうっふひゅう。

 その呼吸音はだんだん近づいてくる。

 徐々にその息は大きく聞こえる。

 かなり近づいてくる。

 クローゼットのドアのすぐむこうに奴はいる。

 僕はクローゼットのわずかな隙間から奴の姿を見た。

 紫の顔が見えた。顔がうっ血している。まぶたは腫れ上がり、目玉が半分ちかく飛び出していた。口からはだらだらとよだれを垂らしていた。

 顔中腫れ上がり、かなり不気味であった。

 そして首には長いロープが巻き付けられていた。

 そのロープは首に深く食い込んでいた。


 かなり変わってしまっているが、僕はこの男の顔を知っている。

 間違いない。

 あの男だ。


 妹をさらい、犯し、殺したAだ。

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