第3話 俺はカレーを作る羽目になった
魔王さまに近付いていく。他の者たちも魔王さまを見つけると、駆け寄っている。人気者だな、流石魔王を勤めているだけあるな。何故か辺りをキョロキョロ見ている。どうかしたんだろうか。
不思議に思いながらも、魔王さまの近くに行く。そして俺と目が合うと手招きされた。それに応じて、魔王さまの横に行った。一体、何をするつもりなんだ?
「皆の衆、こいつが例の人間のリュートだ。仲良くやってくれ。喧嘩はするなよ。それでは、リュートと模擬戦やってくれる奴はいるか?いなかったら、私が相手をしよう」
「魔王様、俺がやっても良いぜ!」
「ではお願いしよう。絶対、手加減しろよ。リュートはまだ弱いからな」
「分かった!手加減だな。任せろ、魔王様!」
どうやら、俺は模擬戦をするらしい。相手はゴブリンだ。きっと今日の準備運動にいた奴だろう。魔王さま、俺はそんなの聞いてないんだが?文句を言える立場でもないから黙っておくしかない。
それに俺は強くならないといけない。これは強くなれるチャンスだ。生かさなければ、もったいない。ゴブリンが手を構えると、周りの者たちが離れていく。リングみたいに丸い空間が出来た。俺も同じように構える。
「朝の礼も入れて、お前からで良いぜ。かかって来いや!」
「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますっ!」
俺は勢い良くゴブリンの顔目掛けて殴ったはずだった。既に回避されていて、俺の顔を殴られる。頬が痛い。咄嗟に距離をとった。手加減し過ぎなのか?すぐに痛みが消える。随分と優しいんだな。
となると、今の俺にはスピードが足りないのか。だったら、あの魔法でやるしかない!俺は全身に電気が走るイメージをする。一気に近付きもう一度、ゴブリンの顔を殴りかかる。今度こそ当たれ!その思いが通じたのか、今度は当たった。
「やるじゃないか。お返しだ、受け取れ!」
さっきと段違いのスピードがある拳に、俺は避けきれずに受けてしまった。衝撃に耐えられなくて、後ろに下がっていく。そして地面に倒れた。激しく頬が痛む。だが痛いのがスッと消えていった。流石に、怪我が治るのが速くないか?
それは置いといて、これがステータスの差なのか……。もっと強くならないと。いずれ来る勇者に一瞬で負けては意味がない。
「リュート、大丈夫か?ゴブル、ちゃんと手加減しろと言ったよな?」
「あはは、すっかり忘れていたぜ。すまんな、魔王様。つい力が入ってしまった」
「お前は後で説教だ。執務室に来い。それより、リュートの手当てをしなくてはいけない。誰か治癒魔法使ってくれ」
何事も無かったかのように、起き上がる。周りの人たちが動揺するのが、目に見えて分かった。そうだよな。俺だってびっくりしている。何がどうなっているんだ?とりあえず、治った事を伝えないとな。
「それはいらないです。もう治ったみたいなので」
「そうか。リュートは治るのが早いんだな」
「前までは普通だったんです。一発目に殴られた時もすぐに痛みが引いたので、不思議に思います。もしかすると、文字化けしているスキルが関係しているかもしれないです」
「文字化けしているスキルか、どういった理由で文字化けしているんだ?気になるな」
前にも意識を失っていたとはいえ、怪我が治っていた。それも、文字化けスキルに応えた結果でだ。どう考えても文字化けスキルのせいだと思う。
考え事をしていたせいか、腹が鳴った。そういえば、朝から飯食ってなかったな。バケツプリンは食べたが、ちゃんとした物を食べたい。じゃあ、カレーを食べよう。
手元にカレーを出す。手を合わせて、いただきますを言ってから、さっき入れたスプーンを出して食べ始める。美味いな、でも周りから感じる目線が気になる。そんなに、珍しい物を出した記憶無かったんだけどな。
「リュート、お前何食ってんだ?そんな美味しそうな物、俺にも分けてくれよ!」
「良いですよ、手を出してください」
ゴブルと言っていたな、このゴブリン。名前はちゃんと覚えとかないと失礼だからな。多分覚えたと思う。
ゴブルが手を出してきたので、乗せやすいように少し手の角度を調整する。これで良いだろう。カレーを出す。ちゃんとスプーン付きでな。
「リュート、ありがとう!それと敬語は俺に対して使わなくていいぞ!美味しいな、これ!」
「分かった。敬語は無くすよ。それはカレーって言う料理なんだ」
夢中になって食べているゴブルを見ると、なんだか嬉しくなってくるな!
何故か他の人たちも食べたそうな目をしている。しれっと魔王さまも欲しそうな顔をしているな。こうなったら、みんなにカレーを食わせてやる。
「皆さんも食べたいなら、ここに一列で並んでください!」
みんなが高速で一列に並んだ。早い!これがステータスの無駄遣いだな、きっと。だって魔王さまが一番最初なんだぞ。ステータスの差がここで現れるとは思わないって。
俺はひたすら、カレーを出し続けた。ふと思う、俺の魔力ってどうなっているんだと。50がどの位使えば無くなるのか不明だが、よく魔力切れしないな。普通なら、もっと前に魔力切れしていても、おかしくないと思うんだが。
もしかすると、回復するスピードが速いのか?魔法陣を触った時に、文字化けスキルがいつもと違う事を言っていたような気がするんだよな。
自分でも好きにステータスを見られれば嬉しいゲームならステータスを簡単に見れるのに。こっちでは出来ないのか?
名前:高橋 琉人 性別:男 種族:人間 年齢:17歳
HP:60/60 MP:50/50
ATK:50 DEF:50
MAT:50 MDF:50
AGI:50 LUK:50
スキル:**
おっステータスが出てきた。これが今の俺の数値か。あれ?前まで全部50だったはずなのにHPだけ60になっている。今まで走りまくったおかげだと、思っておこう。相変わらず、文字化けはそのままだな。
バケツプリンの効果だとしても、これはドーピングに近い物になっているから、二度とやらない。いくら強くなれたとして、ドーピングで強くなったって言っても、全然嬉しくない。
良し、これからちゃんと筋トレしよう。それが、強くなる為の近道だと信じたい。今後のモチベーションがこれで保てるな。良かった。
俺が考えている間に、カレーの行列は無くなっていた。いつの間にか俺はマルチタスクをやっていたのか。
「リュート、ありがとう。ここ最近は食料も不足していてな。本当に助かった。本来は私がどうにかしないと、いけないところなのは分かっているのだが、中々上手くいかなくてだな。とにかくありがとう」
「魔王さまに感謝されるのは嬉しいです。だけど、これは俺が勝手にやっただけなので、気にしないでください」
褒められるのって嬉しい。ダメ出しされまくってていたあの頃とは段違いに良いな。その実感がある。ひょっこり出てきたのはスプーンを片手に持っているゴブルだった。
「リュート、おかわりってあるか?俺、もっとカレー欲しいんだよ!もう一杯だけで良いからお願いだ!」
「ゴブル、お前はリュートにこれ以上迷惑をかけるな!あの人数を配っていたのを見ていなかったのか、リュートも大変なんだぞ!」
「良いですよ、魔王さまそこまで止めなくても。ゴブルだっけ、カレーにハマったんだな。どの位欲しいんだ?」
ゴブルが示したのは、大食いの人が食ってそうなデカ盛だった。これは多いな。いくら体格が良いからと言っても限度があるだろ!
「本当に食いきれるのか?残したら、二度と作らないからな。そのくらいの覚悟はしておけよ、良いなゴブル」
「全部食べ切れるから問題ないぜ、リュート!さあ、作ってくれ!」
そこまで言うなら、作るしかないじゃないか。気合を入れてさっきより集中する。皿も大きくして、そこにご飯とカレーも大盛りにこれでもかと乗せる。特別サービスで、カツもトッピングして完成だ!
それを手に乗せるのはキツイだろうから、適当にテーブルとイスを作る。そのテーブルに特盛カツカレーを出す。これで準備は整った。後はゴブルが食べるのを待つだけ。
ゴクリと誰かが固唾を呑む。それが美味しそうだったからなのか、妙に緊張感があるせいなのかは、分からない。
そこにゴブルがイスに座った。少しの間手を合わせ、祈りを捧げている。そして静かに食べ始めた。ただ何も言わずにゴブルは食べ続ける。
スプーンをそっと置き、再び手を合わせてゴブルの特盛カツカレーは完食だ。この雰囲気はゴブルが口を開いた時に、もう消えてさっきの賑やかさが戻ってきた。
「美味しかったよ、リュート。俺の要望に応じてくれて感謝だぜ!あのサクサクとした物はなんだ?凄くカレーと合って美味しさが更に増してたアレはリュートが考えたのか?」
「アレはカツという奴だ。豚肉に衣を付けて揚げた物でカツというんだ。それをカレーに乗せたカツカレーは、俺が居た国だと人気だった料理だよ。ちなみに俺が考えた訳じゃないからな、間違えるなよ。何より、ゴブルの口にも合って良かった」
カツカレーの事をゴブルに説明していると、また周りから熱い視線がこっちにきている。この感じはまさか、全員がカツカレーを要求してくるパターンか?
「「「どうか、俺たちにもカツカレーをください……!」」」
「仕方ないな、良いよ。ここから一列に並べ!」
「「「やったー!」」」
嬉々として高速で並んでいく魔族たちに、思わず吹いてしまった俺は悪くないと思う。仕方ないから、テーブルとイスを複数作ってやり、ある程度の人数が座れるようにした。さっきの特盛カツカレーをドンドン作っていく。
この光景を見ると、俺はいつ料理屋になったんだっけ?そう錯覚するほど、俺の料理は魔族たちに人気が出たのであった。
強くなる前に、料理で魔族たちと仲良くなるとは思わないって。どうしてこうなったんだろうな?
まあ、魔法の練習になっているから良しとしておこう。これで少しはMPも増えていると信じたい。同じ物ばかり作っていると上がらないかもしれないけどな。
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