第2話 俺は魔族の味方をする事にする
ここは何処だ。俺はあれからどうなったんだ。やたらと周りがざわざわしている。まさかあの国に戻ってきてしまったのか?それだけは勘弁してほしかったんだがな。
そっと目を開く。俺はベッドに寝かせられていた。周りにいたのは、人間ではなかった。獣人やドラゴンやら、ゴブリンなど、ファンタジーと言えば思い浮かべられる者たちだった。所々に傷があるのはどういう事なのだろうか。
俺が上半身を起こすと、全員が慌てて何処かに行ってしまった。騒がしかったのが急に無くなると、少し淋しいな。
かと思えば、先頭に一人の男がいる状態で戻ってきた。この男の頭に角が付いている。コスプレしている訳がないだろうから、人間ではなさそうだ。笑顔なのに何故か怖く感じて、固唾を呑んだ。
「あそこの魔法陣をどうやって発動させた?いや、まずはここに来た経緯を覚えている限りで話せ」
頷いて素直に、緊張のせいで言葉がつっかえてしまったが、こことは違う世界に住んでいた事、召喚されてすぐに追放された事、深い谷に落とされて魔法陣を見つけた事、魔法陣を触った事、覚えている限りの全部を話した。
男が俺の話を聞いてくれただけでも、ありがたかった。自分でも信じられるような話ではないからだ。無意識に右手が首をポリポリかく。
「そうか。魔法陣を触った後は覚えていないか。あの王国、未だに私たちの領地を狙っているようだな。いい加減諦めてくれると嬉しいのだが、欲深い国王が居る限り変わらないだろう」
「……俺があの国で聞いていた話と違います。あっちだと、魔族が侵略してきていると言われました」
男の笑顔の怖さが増した。体が震えそうになるのを必死に止める。
「それは逆だ。人族が侵略してきている。宣戦布告もないから避難が間に合わないんだ。今はなんとか持ちこたえているが、この状況がいつまでも続く訳がない」
濡れ衣を着せられているのは、誰でも怒るよな。やっぱりあの国ロクでもないな。手をグッと握る。人間に侵略されながらも、俺の事を殺さなかったんだ。あの傷もきっと仲間を庇って出来たのだろう。
明らかに人間より、魔族の方が優しいな。だからこそ、俺は雑魚だがこの国の手伝いをしたい。
「もし良かったら、俺をこの国に居させてください!俺は雑魚ですが、国の為に何か役に立ちたいです!お願いします!」
俺は頭を下げる。人間がこの国にいたら、面倒も起こるだろう。それでも受け入れてくれるのだろうか。無理だったら仕方ない。諦めてどこかに行こう。
「分かった。良いだろう。だが、お前は人間だ。人間に恨みを持つ者も多い。ある程度力が付くまで、この城にいる事だ」
「分かりました!お世話になります!」
「ついでだ、私の自己紹介をしよう。今、魔族の王を勤めている、タロンだ。よろしくな」
「俺の名前は
というかこの人、魔王だったんだ。分からなかった。確かに周りの者たちの態度もそんな風だったのには気付いた。まさかいきなりトップが出てくるとは予想外だよ。びっくりした。
一時的なものかもしれないが、俺を受け入れてくれるんだな。それなら俺も応えなければいけない。鍛えまくって雑魚から脱出してやるぞ。強くなれたら、恩返しをしないとな。
「だが、今日は休め。転移魔法陣は慣れていないと体力も使うものだからな。明日から稽古だ」
「分かりました」
返事をしてから眠気を自覚する。体が休みたいと言わんばかりだ。もう耐えきれない。俺はそのまま寝てしまった。
また眠気が来たのだろう、リュートは寝始めた。明日から厳しく指導するつもりだから、しっかりと休めよ。明日が少し楽しみだな。
さて、楽しみな事を考えるのは後にして、問題なのはあの王国のことだ。未だにあの谷に、くだらない理由で人間を落とし続けているのだろう。余裕ができ次第対処したいが、その前にロクでもない事になりそうだな。
それもあるが避難民の住居も建てておかねば、すぐに埋まってしまう。食料の確保もしてやらねば足りなくなってしまう。やるべき事が沢山ある。
「皆の衆、この人間はリュートは敵ではない。それが分かったな。今すぐ持ち場に戻れ。私たちにゆとりは無い。皆の力を合わせて、この危機を乗り越えるぞ!」
「「「おー!」」」
部下たちが持ち場に向かっていくのを見届けた。俺は執務室に向かい、書類関係の仕事をし始める。
中々の量の書類がある為、まだ終わりが見えない。時間を確認すると、既に真夜中だった。流石に寝なくては明日に支障が出るな。寝るか。
昨日しっかり寝たおかげか、俺はすっかり元気になっている。体を本格的に動かす前に、準備運動しないとな。
ベッドから降りて、周りに当たらない場所に移動する。学校でやっていた準備運動を思い出しながら、その通りに体を動かしていく。
一通り終わると、その様子を見ていたらしいゴブリンがやってきた。不思議そうな顔をしている。そんなに珍しい物をやったつもりはなかったんだが。
「お前、何やっていたんだ?」
「準備運動という物で、体を動かす仕事とかの前にやると、動くのが楽になるのです」
「へーそんなものがあるんだ。俺もやってみたいぜ!」
「ではもう一度やるので、俺の動きを真似してみてください」
ゴブリンと一緒に、準備運動をした。間違えている所を直したり、途中から参加人数が増えていたり、と色々あったが少しゴブリンたちと打ち解けられた気がする。
「じゃあ俺たちは仕事に戻るぜ。明日も一緒に準備運動やろう!」
「分かったよ。また明日、ここに来てくれ」
明日もゴブリンたちと準備運動する事になった。楽しみだな。明日の人数がもっと増えていたら……そんな訳ないか。
準備運動をこれでもかと言うほどしたので、いつもより体が動く。流石にここから動きたいが、勝手に動くと面倒な事になりそうなので、動けない。
ふむ、筋トレでもしておくか。どうせ魔王さまが来るまで暇だからな。腕立て伏せにスクワット、腹筋等色々やっている内に、魔王さまが来た。
「起きていたか、リュート。今からお前が強くなれるように鍛えてやる。ついてこい」
「分かりました。よろしくお願いします!」
魔王さまについていくと、かなり広い場所に出た。よく見ると他にも剣で模擬戦している者たちがいる。どうやらここは訓練所のようだ。学校の校庭より広いな。向こう側まで広すぎて良く見えない。
「着いたぞ。ここは戦闘訓練をする所だ。魔法を打っても、剣を振り回しても、問題ない。好きに使うといい。ついでに言っておくが、魔法は想像が具体的な程、威力が上がるからな。人がいる方向に打つなよ。じゃあ私は仕事に戻るからな。時間が経ったら迎えに来る」
「分かりました。俺、頑張ります!」
魔王さまは仕事をしに戻っていった。よし、鍛えてやるぞ。とりあえずこの辺りを十周走るか。
始めはゆっくり走って、どんどん速度を上げていく。そういえば、体が動く時に微弱な電気が流れていると、聞いた事があるな。電気の動きを早くすれば、早く動けるんじゃないか?
体を流れている電気が速くなるイメージをする。目に見えて速くなっているのが分かる。だが、疲れるのも早いな。使い方によっては、強そうだな。例えば避ける時とか、相手に近づく時とかに使えると思う。
この感覚にも慣れておかないと、いざという時使えない。もう少しこれを続けよう。やっと十周走り終わった、もう疲れた。クタクタになってその場に座り込む。
体力を回復させている間に、魔法の練習をしよう。土で彫刻を作ってみようかな。何を作ろうか。適当にゲームに出てきた剣でも作ってみよう。長めの剣で両方に刃があって、少し装飾があったな。こんな感じの剣を目の前に出すイメージ。
すっと現れたのはゲームから、そのまま持ってきたような再現度の剣。これどう見ても土で作られてないな。明らかに金属だよ。
どうしようこの剣。とりあえず分解するか。細かく分解させれば問題ないよな。柄を触って原子レベルまで細かく分解するイメージで。一瞬で跡形も無く綺麗に消え去った。よし、上手くいったみたいだ。良かった。
次は何をするか。剣じゃなくて、道具作ってみるか。鉛筆にしよう。手元に緑の鉛筆が出るイメージをしてみる。
おっ出てきた。しっかりと芯が尖がっている。書けるか試すにはノートが必要だよな。ノートも手元に出してっと。ノートを開いて、鉛筆を持って書いてみる。おお、書ける。消しゴムも必要だよな。手元に出す。消しゴムを持ち、鉛筆で書いた所を消す。やっぱり消えた。
素材がよく分からなくても、形と使い方さえ分かっていれば出てくるな。場所は指定しないといけないみたいだが。
こんなに自在に出せるなら、デカイ物も出せるかもしれない。憧れだった、バケツプリンを出すことも、出来るんじゃないか?ついでに体力も、上がればいいなという思いを込めて目の前に出す。
マジか。本当に出てきた。バケツを触ってみる。いい感じに冷えてやがる。これはヤバイぞ。美味そうだ。スプーンを右手に出して持つ。いただきます。
ごちそうさまでした。普通に美味しかったけど、量が量だから飽きそうになった。
ここまでくると、アイテムボックスとかも平気で作れそうだ。それのポケット版を作ればヤバイ物もそこに入れられるだろう。ズボンに引っ掛ける部分も作れば持ち運びも楽だ。手元に出てくるように設定してと。
よし、出てきた。ズボンの所に引っ掛けて鉛筆とノート、消しゴムを入れておく。こんなものかな。あっバケツとスプーンを忘れていた。分解しておくか。これで後は何も残っていないよな。魔法で遊んでいると、楽しい。
そんなこんなで、体力も回復してきた。またこの辺りを走る事にするか。普通に走るのはつまらないから、何か工夫をしたい。普通に、体に重りを付けて走ってみるか。
腕と足に付けられる重りを、足元に出す。試しに1kgを、両腕と両足に付けてみた。割と重いな、これ。
じゃあ、走っていくか。いつもより重い体をゆっくり動かしていく。段々と慣れてスピードを出していく。その最中に魔王さまが来た。今日の訓練はここまでだな。
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