雑魚な俺は魔族の味方をする事にした

むーが

第1話 俺はどうやら雑魚らしい

 やっと俺は、高一で一人暮らしという自由を手に入れた。家事をするのは大変だが、それもあの家から出られた対価と考えれば大分安い。


 生活費は親が出している。邪魔な俺が自分から出ていったお礼のつもりなのか、どうかは分からない。


 両親は俺だけやたらと厳しくしていた。ひたすら長男だからと言って我慢させられていた。唯一好きにやって良い物は勉強だけだ。


 おかげでテストの点数だけは良かったが、それがなんだよ。友達との遊びも出来ない、部活すらも、させてくれなかったんだぞ!


 弟と妹は俺と違った。俺が禁止されている物を許可されていたんだ。何故俺だけ駄目なのか。長男に生まれただけで、我慢するのはもう、うんざりだ。だから俺は一人暮らしを始めた。


 楽しそうに弟と妹がゲームをやっていた。それを思い出してゲーム機を買う程の金はなかったから、連絡手段として買ってもらったスマホでアプリゲームをした。凄く楽しかったんだ。


 今日も家事を終わらせ、他にやる事がない事を確認した。後は寝るだけだ。ゲームをしよう。ゲームにログインしてギルメンたちと話しながら、デイリークエストを終わらせた時だった。いつの間にか知らない場所にいた。


 何処だ、ここ。俺がギルメンたちとのお喋りタイムを、楽しんでいる途中だったのに。というか周りに人が居過ぎだろ。俺は見世物ではないんだが。何故か嫌な予感がする。



「おお!勇者が召喚されたぞ!」



誰かが言った声に聞いた周りの人たちが、歓声を上げる。普通にうるさい。耳を塞いでも大して変わらなかった。


 待てよ、俺が勇者として召喚された?そんな物に答えた記憶もない。一体どうなってやがる。手を軽く握るが、すぐに止めた。こんな事で怒っても仕方ない。


 周りの人達の様子が一変して、誰かを通す為に退いていった。その道を出てきたのは、ぽっちゃりとしたおっさんだった。


 服の装飾とかアクセサリーとかが、これでもかと付いている。自己主張激しいな、この人。俺がやっているゲームにすら、ここまで酷いのは居なかったぞ。



「貴方様が勇者に選ばれた人ですな。私はこの国の国王をしております。貴方様を召喚した理由を説明します」



王様が言うには、人族が魔族に侵略して被害が大きくなってきた。これ以上は放っておけないと戦力が期待できる勇者を召喚する事になったそうだ。


 なるほど、状況は理解できた。でも王様がここまでぽっちゃりしていて、周りにいる人たちもぽっちゃりが多い。そこまで危機的状況じゃない気がするんだよな。


 もし王様の言う通りだとしても、俺が戦力になれるとは思えない。習い事もロクにさせてもらえなかったからな。習い事をする金ぐらいあったはずなのに。クソ親め。



「だが、俺は強い力なんて持っていない。ただの一般的な高校生だ、戦力を期待されても困る」

「それなら問題ありませんぞ。こちらに来る前に、創造神ユニヴェール様に会った時に能力を授かったはずです。こちらに能力値測定器があります。手を置いてください」



創造神ユニヴェールって誰なんだ。こっちに来る時は誰にも会ってないはずなんだが。


 強いて言えばギルメンたち位しかいないぞ?ギルメンにユニってやつはいたが、なんか俺と気が合わなくて、良く口論していたな。そして他のギルメンたちが仲裁してくれていた。ここまでがテンプレだった。


 今日も懲りずにユニが突っ掛かってきて、俺と口論になったな。今日はギルメンたちが止める前にこっちに来てしまった。中途半端だから早く家に帰りたくなってきたな。


 疑問を抱えながらも、王様に言われるがままに、能力値測定器なるものに手を置く。少しすると文字が浮かび上がってきた。


 おっゲームのステータスみたいだな。肝心の俺の能力値は全てが50だった。高いのか低いのか分からない。スキルの所が文字化けしている。この機械壊れているんじゃないか?


 王様の方をチラッと見るとなんだか、驚いている。この反応もしや、俺のステータスが凄かったのか?チッと舌打ちがどこからか聞こえてくる。


 そして王様が小さく雑魚がと呟いた。そうか、俺は雑魚なのか。だったら、さっさと元の場所に返してくれよ。



「一刻も早く、こいつを例の場所へ連れていけ!こんな雑魚使い物にならない、文字化けなんぞ気味が悪くて仕方ない!」

「はぁ?雑魚なら元の場所に返せよ!例の場所がなんだか知らないが、勝手にこっちに来させられたんだ、その位の権利はあるだろうが!」



俺の言葉は当たり前のように無視する。俺を周りのやつらも、俺の悪口を平気で言っている。さっきまでの歓声が嘘だったみたいだ、手のひら返しが凄いな。全く随分と、自分勝手な人たちだな。


 何処からか来た、騎士みたいな人たちに拘束される。抵抗するが、騎士はビクともしない。無理やり馬車に乗せられ、たどり着いたのは底が見えない程に深い谷だった。


 そういえば、俺って一応勇者なんだよな。普通はいくら雑魚と言っても大切にするものじゃないのか?そこの所、どうなっているのか駄目元で聞いてみるか。



「なぁ、借りにも俺は勇者なんだろ。こんな簡単に捨てて良いのかよ?」

「大丈夫だ。次がある。だからお前は安心して落ちて死ね」



へぇ、次があるのか。それなら俺みたいな雑魚を、大事にするという事はこの国はしなさそうだ。なんなら、次々と召喚しているかもしれない。


 しかも予想は出来ていたが、俺はここに落とされるのか。俺の人生最悪だったな。クソ親から、やっと離れられたと思ったら、こんな目に遭うなんて最悪だ。騎士に背中を押されて落ちていく。


 ああ、これで俺は死んでしまうのか。もっとギルメンたちと楽しい事をしたかった。どうしても生きたいと思った時に底に着いた。体中に激しい痛みが走って、体が言う事を聞かない。意識があるのが不思議な程だ。


 急にゲームのやつみたいなメッセージが目の前に出てきた。


『**しますか? はい/いいえ』


俺がどうなろうが生き残れるのなら、なんでも良い。はいを選んだ。意識が途切れる。





 ん……、体が痛くないだと?暗闇で見えないから、あちこちを触ってみたが何処も治っているらしい。もしかして文字化けしていたあのメッセージのおかげなのか?


 しかし、この暗さには参ったな。上が薄っすらと明るくみえるだけで、目の前さえ暗くて見えない。せめてもう少し見えるようになりたいな。


『**しますか? はい/いいえ』


また出てきた。とりあえず、はいを選ぶ。これは一体なんの条件で出てきているのか、わからないな。


 急に眠気が襲ってくる。何がどうなっているんだ……?俺は眠気に勝てずに寝てしまった。





 目が覚める。体を伸ばそうとした時に、視界の変化に気が付いた。さっきまでほぼ何も見えなかったはずなのに、普通に見えるんだ。改めて自分の身体を見ると綺麗に治っている。良かった。


 周りを見渡すと、あちこちに人間の死体だと思われる物がある。きっと俺と同じ様な目に遭った人たちなのだろう。


 あの国ロクでもないな。追放と言って良いのか分からないが、実際死にかけたから処刑に近いか。それをされたかいがあったな。


 死体を漁るのは正直嫌だが、こんな所に食べられる物があると思えない誰か持っていないだろうか。


 死体漁りをしていると、大きめの魔法陣っぽい物を見つけた。どうにかして、発動してくれれば、ここから出られるかもしれない。


 そっと手で触れてみると、魔法陣が光り始めるが、一瞬で強い倦怠感が出てきた。あまりの怠さに体を動かすのが辛い。これをなんとかしてくれよ文字化けスキル!


『要望内容を確認。**を実行します』


今度は意識が飛ばされた。俺は後何回、意識飛ばせば良いんだよ?薄れていく意識の中で思った。





 私は戸惑っていた。あの転移魔法陣は魔力を5000使う。だからそれ以上ないと、発動しないはずなのだが、この人間は魔力が50なのだ。どう考えても発動出来る訳がない。


 予想外の人間の出現に殺気立っている部下たちの気持ちも分からなくはない。私たちは人間から攻撃を受けているのだ。当然、家族を殺された者もいる。


 しかし今は殺していい段階ではない。この人間もあの王国から逃げてきた可能性がある。害がない人間を殺してしまえば、私たちは悪の人間と同じだ。


 だがここに居るという事は何らかの方法で発動させたのだろう。ひとまず休ませなければ話も聞くに聞けないだろう。



「皆の衆よ、まだこの人間は悪と決まった訳ではない。なんせあの王国の事だ、きっとこいつは捨てられた。我らと似たような境遇なのだ、今は休ませてやらねばならない」



部下たちは頷いた。私の言葉に納得してくれたらしい。これでひと安心だ。人間の寝床を用意する様に指示し、そそくさと動いてくれる。少し時間が経った。



「寝床の用意が出来ました。その人間は私たちで運びますので、お渡しください」

「分かった。だが、私が運ぶぞ。これだけは譲れないからな」



私は用意された寝床に向かう。そして人間を寝かせてやった。体をちゃんと休ませておける環境があれば、目を覚ますのも早くなるだろう。



「では、人間が起きるまで、私が見張っておきます」

「起きたら、真っ先に知らせてくれ」

「分かりました、魔王様。速攻でお知らせします」





 この勇者も使い物にならない。あの勇者も使い物にならない。全く、使い物にならん奴らだな。我の国が一番武力がある事を証明する為に、勇者召喚をし続けて、魔族領を奪い取っているというのに。



「早く、次の勇者を呼ぶんだ!さっさとしろ!使い物にならない奴は、例の場所に連れて行けば良い!」



それから何度、勇者召喚をしただろうか。今回も雑魚かと思っていたが、ついに待ち侘びた知らせがやってきた。


 家臣が急いで部屋に入ってきたと思うと、嬉しそうに吉報を知らせてくれた。



「陛下、良さげな勇者たちが来ました!」

「ほう、複数とな!早く、こっちに来るように言え!」

「分かりました。急いで言ってきます」



ようやく、当たりが来たか。しかも複数来たとなると、もっと豊かになるな!もっと魔族共から領地を奪ってやるぞ!グフフ、楽しみだな!

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