シナリオ56


 ここは開かずの部屋。

 どこからも通じず、どこへも行けない場所。

 当然、プレイヤーなど現れるわけがない。

 だが、そのような場所であっても、『リアルクエスト』のNPC達は日々の活動を続けている。


  ☼


「神官様~お茶が入りました~!」


「おお、ペロちゃん、いつもすまんの~。今日もエルフの森直送の特級茶葉かえ?」


「そうですよ~グラム20000ガルズのお茶ですから味わって飲んでくださいね~」


「おおっ、凄いの~。さすがエルフの森じゃ!」


(そんなわけないじゃないですか。セクハラジジイにもったいない……このお茶はグラム7ガルズの香典返し向けの煎茶ですよ~しかも二番煎じ……)


「ん? 高級茶の割になんか物足りんの~薄い?」


(ちっ、気付きやがった……)

「気のせいじゃないですか~? 最近、働きづめですし~痴呆ちほうが進行したのかも~」


「そうかの~? ほらっ、たぶんアレじゃ! まごころがたらんのじゃ。指でハートを作って、おいしくな~れ~、モエモエモエ~。アレをやっとくれ。今すぐ!」


「誰がするか、セクハラジジイ!」


「ジジイとは酷いの~。長寿のエルフ族のペロちゃんの実年齢は、ワシと大差ない……」


「おいしくな~れ! シネシネジジイ! ハイ、おいしくなったわよ!」


「まったく、いつもいつもワシのアシスタントの時だけキツイの~。まあ、それがいいんじゃが……」


(別の担当に代わるようにキツく当たっていたのに、逆効果だったか……どMめ!)


「ところで先刻のクランケじゃが……銀髪じゃったの~?」


「ああ、あの話ですか? 第一王子でしたか、城外で行方不明になったのは……。もう十年以上も前の話ですよ。普通ならとっくに死んでます。っていうか、死にましたね。プレイヤーが宿ってましたから成仏じょうぶつせずに済みましたけど……」


「ペロちゃんは、何も感じんかったか? ふんどしへの興奮以外で?」


「気のせいじゃないですか? 髪の色も日々の農作業で色あせているだけですって。本人も農夫って名乗ってましたし」


「まあ、ロットネスト王家の依頼じゃし、捨ててもおけん」


「どうするんですか? 私たちは神殿から簡単に出られませんよ?」


「ペロちゃんが調査を担当してくれ。神殿勤務を依願退職して」


「い、嫌ですよ! あんな露出狂のために仕事を辞めるなんて!」


「こまったの~、ペロちゃん以外に適任者がおらんのじゃ~」


「セクハラの次はパワハラですか? 本当に訴えますよ!」


「それは無理じゃ。ペロちゃんは近々クビになることが決まっておる。依願退職ならば退職金が出るぞい」


「な、なんですって! わ、私がクビ!」


「そりゃそうじゃろ? いくら死体でも無断で下着をぎ取ったら犯罪じゃ……。王宮の査問委員会でも問題になっておる。マッパの漢が神殿と城下町を徘徊はいかいしておったと……」


「あ、あれは神官様が私にやれって……!」


「アレは軽いジョークじゃよ。オヤジギャグ!」


「あんな理屈詰めのオヤジギャグなんてありません! 誰だって信じます!」


「しかも、生きている男の肌着は触りたくないと言って、ハンマーで殴ったじゃろ? 訴えたらむしろそっちが問題になるぞ? クビどころか下着強盗殺人……前代未聞の醜聞沙汰じゃ」


「ひ、酷い! パワハラジジイ!」


「まあ、そう邪険にするでない。楽な職場を用意するでの~」


「せめてセクハラ上司がいない職場にしてください!」


  ☂


 こうして、ペロリーナ・ド・ヌラーバー・ロリロリーナ・エスペランスは、ロットネスト王国農業ギルドへと左遷させんされたのだった。

(左遷=官位を落とすこと。遠地へ赴任させること。リストラ)

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